人口減少・財政難に直面する地方自治体が、どう課題に向き合っているのか?
静岡県磐田市と神奈川県真鶴町、まちのスケールも背景も異なる自治体の首長をお招きし、地方創生の実践と挑戦を語っていただきました。外部人材活用、関係人口創出、住民対話など、地方創生に取り組む自治体や地域に関わりたい方必見の内容です。
※本記事は、2025年10月17日に開催されたトークセッション「OFF TOKYO GRANDE vol.2 ―地方だからできる、突破力あるまちづくり―」の内容をレポートにしております。
登壇者紹介

静岡県磐田市長 草地 博昭さん
1981年磐田市生まれ。国立豊田高専卒。JR東海に入社後、首都圏で暮らすも、地元愛、地方創生への思いから磐田市へ帰郷。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長兼ジュビロ磐田メモリアルマラソン事務局長を務め、2013年に磐田市議会議員に初当選。2021年4月より現職(2期目)。全国青年市長会東海ブロック理事。

神奈川県真鶴町長 小林 伸行さん
1975年福島県鏡石町生まれ。筑波大学を卒業後、出版社、NPO中間支援組織、CSRコンサルティング会社、個人事業主として独立を経て、政治の道へ。国会議員政策担当秘書の後、横須賀市議を4期13年務めながら早稲田大学公共経営大学院で修士号(MPA)を取得。リコールに伴う2023年11月の真鶴町長選挙において当選。マニフェスト大賞を6回連続8回受賞。

ファシリテーター 宇都宮 竜司さん
アルファドライブ執行役員/アルファドライブ高知代表取締役/NewsPicks Re:gionアドバイザー
京都大学大学院工学研究科化学工学専攻修了。株式会社リクルート住まいカンパニーで営業と新卒採用を担当の後、株式会社リクルートホールディングスに出向。スタートアップ支援プログラムのコミュニティマネージャーとして総計300チーム以上を支援。2017年に高知県に移住し、IT関連企業にて事業開発部長 兼 経営企画室として新規事業開発の部門の立ち上げ、複数の新規事業の企画・推進、全社経営戦略の策定等を行う。地方の中小企業における新規事業開発を活性化し、地域経済の成長に貢献したいという思いから株式会社アルファドライブに入社。2019年、株式会社アルファドライブ高知の代表取締役に就任。KOCHI STARTUP PARKメンター、愛媛県企業誘致アドバイザー、株式会社Left hand代表取締役を兼任。愛媛県出身。
地方創生リーダーの原点
宇都宮さん:まず改めて自己紹介をお願いします。
草地さん:静岡県磐田市生まれです。中学卒業後、愛知県の学校へ進学して地元を離れました。
その時期にそれまでは感じていなかった地元の良さに気づきました。
私たちのまちにはジュビロ磐田というコンテンツがありますが、愛知県の私のいた学校ではサッカーより野球、中日ドラゴンズを応援する雰囲気がありました。そんな環境で、磐田を盛り上げていきたいというシビックプライドが芽生え始めた青春時代を過ごしました。
その後JR東海に入社し、新幹線の品川駅建設に携わり東京で3年暮らしました。
東京に出てみると、故郷の見え方が変わり、もっとそれぞれの地方を良くできるのではないか、それを自分がフィールドとしてやるなら、やはり地元に戻るべきだと考えて帰郷しました。
いきなり政治家になろうと思ったわけではありませんが、スポーツ協会に入り、その後市議会議員を務め、現在市長5年目です。よろしくお願いします。
小林さん:福島県の鏡石町生まれで、町長になりたいと思ったのは実は小学校の頃でした。
当時、竹下登首相がふるさと創生1億円事業をやりました。全ての自治体に1億円を配り、好きに使えるという政策です。まちによっては宝くじを1億円分買って3億円になったまちや、金塊を買ったなど、やんちゃな使い方をしたまちもありました。
私の生まれたまちの町長は、全ての家庭にまちの歌が入ったオルゴールを配りましたが、その発注先が自分の弟の会社だというので大スキャンダルになりました。町中の人が町長の悪口を言っているのを聞いて、そんな政治は良くない、いつか僕が町長になってまちを変えると思ったのがきっかけです。
私、長男なのですが、実家を継がせてもらえませんでした。生まれたまちで町長をやりたかったのですが、実家がまち一番の電気屋さんでまちからの仕事をもらっているので、私が町長になると縁故になり仕事がとれなくなってしまうので、親から200万円を渡されて「絶対に帰ってくるな」と言われたんです(笑)
その200万円を種銭にして、当時横須賀市に住んでいたので横須賀市議になり、4期務めました。その中でどうしてもいつか町長になりたいという思いが出てきて、早稲田大学にMPAコースがあることを知りました。MBA(Master of Business Administration)の行政版で、Master of Public Administrationといい、行政経営のプロになれる資格です。
資格を取って大学院で研究しているうちに、神奈川県の真鶴町で前町長のリコール問題による大混乱があり、ちょうど研究でもそのまちのことを扱っていたので、これは大変だと思いました。困ったところだったらプロ経営者として雇ってくれるかなと思って手を上げたら雇っていただき、今雇われ町長として2年目です。
真鶴町は人口6,000人、面積は7平方キロメートルでとても小さく、箱根の芦ノ湖にすっぽり入る大きさです。神奈川県唯一の過疎のまちで、過疎指定がいわば自治体版の生活保護のようなものなので、一度指定されると脱却するまちはありませんが、うちは日本初で脱却したいと思っているところです。よろしくお願いします。

まちづくりで大切にしていること
宇都宮さん:本日は突破力のあるまちづくりというテーマで、お二方それぞれが地域において、首長としてどんなことを大切にされているのかお聞きしたいと思います。
草地さん:共創を土台に考えています。16万人の市で職員は正規が1,000人、非正規が1,000人で、大体2,000人ですが、2,000人では物事は変えられません。むしろ地域の市民の皆さんの躍動感をどうつくっていくのかというところで、共創というキーワードを掲げています。
大事なのは、最先端や最新のものを学んでくることです。学びから共感をつくって共創につなげていくことをいろんなシーンでやっていきます。
産業面だけでなく、子育て政策、高齢者政策、公共施設の再編など。
日本のさまざまな自治体でいろいろな取り組みをしている人たちがいるので、そのいい情報を磐田市らしくカスタマイズして、新しいものを起こす、これを共創資本経営と言っています。
自分でつくった造語なので、まだ浸透していませんが人的資本形成や文化資本といったキーワードが出ているので、市民と共創していく、資本と資本を共創していくという発想でやらせてもらっています。
小林さん:私はプロ経営者として雇われ町長に入ったので、雇われ町長は株主の言うことを聞くべきだと思っています。
株主である町民がまちを変えないことを望んでいるので、私のミッションは今のまちを変えないことです。
一方で、まちの形は変えてはいけませんが、その裏で動いていることは変えないとどうにもなりません。
主には業務のリストラをやって、仕事をどんどん減らしていかないと、お金も減らせないし、職員も減らせません。
小さいことですが固定電話を全廃して、職員一人1台スマホを配り、どこでも仕事ができる環境を整えつつあります。

変化を起こすための突破方法
宇都宮さん:地域を変えようと思ったときに、これまでやってこられたこと、ぶつかった壁、その突破方法について教えてください。
草地さん:よそからの風を入れることに対して、人間は変えてほしいと思いながらも保守的ですから、新しい風を持ってくるときには丁寧なプロセスを踏んでいかなければいけません。
私は、ど真ん中に安心できるまちを掲げています。
「安心してください。皆さんの暮らしや社会がよくなっていきますよ」というメッセージを伝え続けることが、突破していくには大切だと思っています。
対話の時間は、実は昨日も地域の中でやらせていただきましたが、16万人もいると小学校区だけで22校あり、やり続けていくことが日程的にもなかなか大変ですが、個人的には回数が全然足りないと思っています。
宇都宮さん:住民参加や対話ということを、ぜひ小林町長にも聞いていきたいと思います。
小林さん:対話には力を入れていますが、公共施設の再編をやらないとどうにもなりません。
全国的には一人当たり3.6平米のところに、真鶴町は7平米持っているので、財政が厳しい状況です。
総論は賛成で、公共施設を減らさなきゃいけないと言います。
ところが、皆さんが使っているこの施設はちょっと古いので建て壊しますと言うと、「いや、それはだめだよ」という話になります。使っているので各論反対になり、合意形成は本当に難しいです。時間の余裕があれば丁寧なプロセスでできますが、急を要している場合もあるので難しいです。
対話のためにも、業務を回すためにも、外の力が必要だと思いました。
前任者の町長のリコール問題でごたごたしたときに、職員の4分の1が辞めてしまい、数は採用し直しましたが、経験が足りないので大混乱していました。
就任したときに、外部の手を借りないとしようがないということで、地域活性化企業人という制度で民間企業からプロを派遣してもらう制度をどんどん活用していきました。ところが職員は、外部の人が入ってくることに対して、最初嫌がりました。
しかし、企業人の方たちも職員に伴走するような形で働いてくれたので、だんだん馴染んできて、今は15人お招きしています。
気づいたら日本一多くお招きしていて、総務省の課長が視察に入りました。
ごらんになって、「こういう活用なら、うちが期待していた活用なので大丈夫ですよ」とおっしゃっていただけました。
外の力を借りながら何とか回しています。ファシリテーターとして招いている方もいて、町民対話もやってもらっています。
参考:総務省|地域活性化起業人 ~企業の社員を自治体に派遣し、地域貢献する活動を支援します!
地域と都市の新しい関係
宇都宮さん:ここまで変化に対する対話の重要性についてお話しいただきましたが、それぞれの地域と都市とどういった「関わりしろ」があるのか、すでに取り組まれていることなど含めて教えてください。
草地さん:1期目のときに、安心できるまちと人が集まる磐田市にしていこうというのをキャッチコピーとして市長選に出ました。
人が集まるまちというのは、交流人口や関係人口を拡大していくということを掲げています。
磐田市の場合、大企業の皆さんの中では2拠点居住している方もたくさんいます。東京のヤマハ発動機にいて週末だけ帰ってくる。
一方で、ジュビロ磐田や静岡ブルーレヴズというラグビーチームがあり、週末は応援に来る。磐田のファンという方々もいらっしゃいます。
磐田には来たことないけどジュビロのファンという人たちもたくさんいるので、関わりしろの可能性がものすごくあります。
ふるさと住民登録制度の創設が始まりそうで、ふるさと納税制度など、関わりしろの可能性をすごく感じています。
やはりファンづくり、磐田の名前を知ってもらったり、どんなまちなんだろうと興味を持ってもらうということから始めようと、そういう取組をさせてもらっています。
宇都宮さん:小林町長はいかがでしょうか?
小林さん:真鶴町は東京から東海道線に乗って2時間なので、東京と行き来しやすいです。
町並みも昔から文人墨客やアーティストが別荘として住んできたまちなので、2拠点居住の文化が前からあったまちです。
今空き家が2割もあって、3,500戸のうち大体700戸ぐらいが空き家です。
これを回していくことがが私の今のミッションなのですが、住む方だけでなく、2拠点居住の方も招きながら空き家を回していきたいと思っています。
熱海、箱根、湯河原、小田原という観光地に囲まれているので、観光地にはなれないだろうと。
1泊する人を1万人呼ぶのではなく、年間100日いる人を100人呼びたいと思っています。
磐田市・真鶴町へのかかわり方
宇都宮さん:今のお話の延長で、今回イベントにご参加いただいた方の中には、地域に関わってみたいという方が多いのかなと思います。
うちのまちに、こんな風にかかわりに来て欲しい、こんなことについて一緒にやりませんか、というテーマはありますか?
草地さん:具体的に地域に関わってほしいことはたくさんあります。
実はホームページに掲載してあって、例えば先ほど少し話が出た、空き家の課題とか。
空き家に関して今は地域おこし協力隊に入ってもらっていますが、企業の皆さんに関わってもらいたいときのために、公民連携デスクを設けています。
民間の皆さんの話を翻訳して職員につなげる役割です。これがあるとないとでは全然スピード感や躍動感が違ってくると思っています。
参考:総務省|地域おこし協力隊~移住・地域活性化の仕事へのチャレンジを支援します!〜
参考:磐田市公民連携の取組
宇都宮さん:これを設置されてから、案件組成とか課題解決につながっていく率は上がったのですか?
草地さん:提案の件数がかなり増えていて、職員から大変だという声は上がっています。
ただ、関係人口や交流人口を増やしていくために、企業の皆さんにおもしろいまちだ、話を聞いてくれるまちということを認識してもらう必要があります。
口コミが広がって、「磐田市は話を聞いてくれるよ。検討を前向きにしてくれるよ」ということが伝わるだけでも違うと思っています。

小林さん:草地市長のお話を聞いて、うちのまちの公民連携デスクは私ですね(笑)
まちの中のことは安心して任せられる副町長をお迎えできたので、どんどん外に出るようにしています。
真鶴町をフィールドとして使えそうだなと思ったらご連絡いただけたら嬉しいです。
先ほど地域おこし協力隊の話が少し出ました、制度の元になったのが島根県海士町です。
連携しているまちでもあるので視察に行ったことがありましたが、ちょっとびっくりしました。
地域おこし協力隊は200人程いて、常時200人ぐらいが2,000人のまちにいる。大体1年から3年ぐらいいる間に15%が定着するそうで空き家が足りない状況だそうです。
これはすごいなと、そういう循環をつくりたいと思っています。
今、真鶴町は地域おこし協力隊は0人です。若くて元気な人を招く地域おこし協力隊は海士町が日本一ですが、専門家を呼ぶ地域活性化企業人は真鶴町が日本一で、まだまだお招きしたいと思っています。
3大都市圏にお住まいの企業にお勤めの方であれば、総務省の御支援をいただいてお招きできるので、真鶴町がおもしろそう、行政に民間の立場から関わってみたいという方はぜひお願いします。
草地さん:私からも質問いいですか(笑)
実際に今どういう人が集まってきていて、この先どういう人が欲しいと思っていますか?
小林さん:就任前に実は2名すでにきていただいていて、1名は電通から来た広報をお願いしている方。もう1名はGMOからいらっしゃったDXを進める方で、今も活躍いただいています。
私が就任して最初にお招きしたのがファシリテーターで、公共施設の再編のために、町民とのファシリテーションをやってもらいました。
ちなみにその人は地域活性化企業人で来ていましたが、仕事ができ、職員の人望も厚かったので、会社を辞めてきてもらって今課長になってもらいました。それが日本初らしく。
国のお金で派遣して、その人が活躍して、まちに根付いて働いたというのが自治体では初の事例ですよと喜んでくれました。
地域に関心のある皆さんへ
現役首長からのメッセージ
宇都宮さん:最後に一言ずつ、参加者の皆さんへメッセージをいただけますでしょうか。
小林さん:いきなり地方に移住しよう、地方に興味を持っていても、それは多分大変なことだと思います。
うちぐらいだと東京と行き来しやすいので、少しずつかかわりを持つまちとして、磐田市と並んでちょうどいいのではないかと思いますので、かかわりを持ってもらえたらうれしいです。
草地さん:ふるさとへの思いを持っている方は、地に足がついている感じがします。
ふるさと住民登録制度の創設も期待がされますので、旅行に行っていいなと感じるまちなどあるのかなと。
それが磐田市や真鶴町ではなくて、いろいろなところにあると思いますから、そこを自分のベンチマーク、大事なふるさと扱いをしながら、東京にいても地方のことを考え続けるということを皆さんに意識してもらえたらなと思います。
今回のイベントの模様は動画でもご覧いただけます
関連リンク
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