
三菱地所株式会社 執行役員 中部支店長 茅野 静仁氏
リニア中央新幹線の開業を見据えた名古屋駅前の再開発、そして栄エリアの変貌。今、名古屋は転換期の真っただ中にあります。そんな街に、1973年に中部支店設立以来、半世紀以上にわたり「街の顔」を創り続けてきたのが三菱地所株式会社です。
今回お話をうかがった中部支店長の茅野静仁氏は、東京や大阪で日本を代表する施設の建設プロジェクトを導いてきた人物です。数々の街を開発してきた茅野氏に、現在の名古屋はどう映り、どのようなポテンシャルを秘めているのかうかがいました。
世界に冠たる技術が集まり、日本の真ん中として機能する名古屋

茅野静仁氏
ーー:東京や大阪での経験も豊富な茅野さんから見て、名古屋という土地の魅力やポテンシャルをどう捉えていますか?
茅野氏:私は東京が長くて、大阪に8年、名古屋に来て丸3年になります。その中で感じるのは、まず「日本の真ん中」という立地の利便性ですね。東京も近いですし、京都や大阪もすぐそこです。さらに、東京からだと遠く感じる岐阜や三重、滋賀といったエリアも、名古屋からなら非常に近くなります。鉄道も物流も含めて、この地政学的なメリットは実は重要なことだと思っています。
ーー:産業面での強みについてはいかがでしょうか。
茅野氏:メーカーの技術の高さはものすごいものがあります。自動車産業をはじめ、世界に冠たる技術を持っていて、日本の技術が集約されている街だなと思います。名古屋の会社はしっかり足元を固めつつ、常に海外を見て仕事をされているなということも強く感じますね。この地域の強みを活かして、次にどう伸ばしていくかが大事なのだろうと感じます。
オフィスの価値はウェルビーイングとリクルーティングにシフト

大名古屋ビルヂング(画像出典:三菱地所)
ーー:大名古屋ビルヂングの竣工から10年が経ちましたが、オフィスに対する入居企業のニーズに変化はありましたか?
茅野氏:経営者の方々の価値観が、特にコロナを経て変わったと感じています。今は社員の「ウェルビーイング」と「リクルーティング」の2点を、経営課題として捉えられています。今いる社員の方に長く居ていただくためにも、新たに会社に来てもらうためにも、その会社を選んでもらうという観点です。社員のウェルビーイングを高めれば、生産性が高まって業績も上がる。大名古屋ビルヂングが人気なのも、立地による通いやすさと、その結果として自然とリアルなコミュニケーションが増えるからだと思います。
ーー:三菱地所として、具体的にどのような価値を提供されていますか?
茅野氏:私は「単なる箱をお貸しする時代はもう終わった」と思っています。大名古屋ビルヂングでいえばリフレッシュコーナーや仮眠室の充実に加え、「綱引き大会」も実施しています。これは大名古屋ビルヂングのテナントさん対抗の大会で、ものすごく盛り上がるんですよ。社内が仲良くなるだけでなく、対戦相手とも仲良くなって、その後のビジネスにも繋がります。
最近はこの盛り上がりを名駅(名古屋駅)全体に広げようと、名古屋駅地区街づくり協議会の皆さんと一緒に、名古屋駅ビル代表チームによる決勝大会を行いました。ほかにも夏に打ち水をしたり、ビールパーティーを催したり。時代に合わせて、今求められている体験を用意し続ける必要があります。
「ザ・ランドマーク名古屋栄」から広がる栄地区の回遊性

ザ・ランドマーク名古屋栄(画像出典:三菱地所)
ーー:2026年の夏頃に開業予定の「ザ・ランドマーク名古屋栄」は、働く人々にどのような価値を提供するのでしょうか?
茅野氏:ザ・ランドマーク名古屋栄の大きな特徴はビルの中に「4つの機能」があることです。それはオフィス、映画館、ホテル、商業施設。働いた後に映画を観たり、ホテルのレストランで会食したり、買い物をしたりできるようにしています。
ーー:ビルの中で全てが完結するような姿を目指しているのでしょうか?
茅野氏:いえ、むしろ逆です。このビルの中だけにずっと居てほしいとは思っていません。ザ・ランドマーク名古屋栄が起爆剤となって、どんどん街に出ていただきたい。栄の周りには本当に楽しいところがたくさんありますから。そして、多くの皆様にこのビルに来ていただきたい。人の出入りが活発に起こることが、働く皆さんにとってもプラスになる。リーシング(誘致)の際も、1棟のビルではなく栄の街の魅力を経営者の方々にご説明しています。皆さん、ウェルビーイングとリクルーティングの観点で「ここがいい」と決断されていますね。

SLOW ART CENTER NAGOYA(画像出典:三菱地所)
ーー:栄では、錦三丁目の「SLOW ART CENTER NAGOYA(スローアートセンターナゴヤ)」もコンセプチュアルですね。
茅野氏:名古屋市から土地をお借りした暫定活用なので、逆に色々できることもあります。サステナブルを考えてボルト留めで解体しやすくした建築や、ウェルビーイングとしてのサウナ、アートといった新しいチャレンジができています。私自身、最近サウナに入るようになってよく眠れますし、人とのコミュニケーションも図りやすくなりました。本当にサウナに入ることでウェルビーイングが高まると実感しているので、そういう取り組みやチャレンジっていうのも面白いかなと思っています。
名駅・栄の両輪と南北軸を繋ぎ、面のまちづくりへ
ーー:名古屋のまちづくりにおいて、名駅と栄の関係性をどう捉えていますか?
茅野氏:よく「どっち派ですか?」と聞かれるのですが、三菱地所としては名駅と栄も「どっちも」だと思っています。名古屋の方は栄が好きで、栄が先に発展した後に名駅の開発が進んだ歴史があります。名駅も栄もグッと上げていって、両方が元気な状態にしたい。重要なのは集客と回遊性を高めて、最後は経済が潤うことです。
ーー:回遊性という点では、地上と地下の使い分けに名古屋の特有の部分がありますが、その点どのようにお考えですか。
茅野氏:名古屋は地下街が充実していますが、もうちょっと地上を歩いてほしいという思いがあります。例えば久屋大通公園。街の中心にあれだけの公園があるのは、世界的に見ても希少です。4年ほどこの公園で社会実験を続けていますが、人工芝を敷くだけで人はたくさん来てくれます。歩きたくなる空間、滞在したくなる居心地の良い空間が増えれば、自ずと経済も回っていくはずです。
ーー:エリアの広がりとして、北の名城エリアや、「南」の大須、金山・熱田エリアについてはどうお考えですか?
茅野氏:南北軸は大切です。名城・IGアリーナと栄、栄と大須・金山・熱田が繋がることで双方が潤う。ハード・ソフト両面で具体化させ、繋いでいくことが大事ですね。名城エリアにIGアリーナができましたが、こういった施設が1つできることで、コンテンツが入って人が増え、街が動き始めていますから。栄はその軸を繋ぐという意味でより重要になります。
--:名古屋エリアで今後どのように展開していきますか?
東京・大阪は大きくまとまった土地を開発できましたが、名古屋ではそういった事業機会に恵まれていません。三菱地所グループとしては、栄でいうと中日ビル、ザ・ランドマーク名古屋栄、錦三丁目5番街区計画などに関わりました。一つ一つは「点」にみえるかもしれませんが、時間が経つうちに「線」になり「面」になり、50年後、100年後には繋がってきます。名古屋エリアでは、そういう長い時間軸で継続的・持続的にプロジェクトを進めたいなと思っています。
名古屋はまだまだ伸びる都市

ーー:最後に、名古屋進出を検討している経営者の皆様にメッセージをお願いします。
茅野氏:自分自身が名古屋で丸3年過ごして感じたのは、名古屋は全部そろっててすごく住みやすい街で、名駅・栄含めまだまだ伸びていくということです。また、東京・大阪とはまた違うコンパクトさで財界との連携も取りやすい場所で、そういった強みもあります。名古屋に魅力を感じる方は、ぜひどんどん来ていただきたいですね。
プロフィール
三菱地所株式会社 執行役員 中部支店長 茅野 静仁氏
慶応義塾大学商学部卒業。1990年4月 三菱地所㈱入社。入社後は丸の内開発部・ビル開発部等に所属し、2006年7月より大阪支店(現関西支店)にてグランフロント大阪開発計画を担当。2014年4月より経営企画部に所属し、2017年4月より経営企画部長、2020年4月より執行役員プロジェクト開発部・常盤橋開発部担当(兼)常盤橋開発部長、2022年4月より執行役員プロジェクト開発部・TOKYO TORCH事業部・再開発事業部担当に就任し、2023年4月より執行役員中部支店長就任。
(取材‧編集‧執筆:讃岐 勇哉 / 取材日:2026年2月2日)