空が白い冬のある日、雲の隙間から漏れた太陽の光が届いている。 足を運んだのは、大牟田市役所の産業振興課。市役所の窓からは、静かに佇むまちの風景が広がっている。 「思っていたより仕事しにくいなっていう感覚は、本庁に配属されて思いました。」 冗談っぽく、そう素直に語る金子佳紘さんは、高校まで大牟田で過ごし、熊本の大学へ通学。就職は福岡の会社に決まったものの、配属先は大分市。そこで4年間、営業職として経験を積んだ。 「大牟田市役所の当時臨時職員を1年し、その間に市の職員を受験して合格しました」。 ご家族が公務員だったこと、仕事の幅が広いことに可能性を感じ、入庁した。 今は、産業振興課で企業の支援に関わる幅広い業務を行なっている。 「主に企業さんの誘致をする仕事が一つあるんですけど、その担当もしながら地元の企業さんの支援をする仕事も同時にやっていて。補助金だったり、企業さんたちが入っている協議会の事務局の運営だったり。」 仕事では企業の経営に近い方とお話する機会が多い。 本気で事業に向き合う人と話す中で、濃い時間を過ごしているそう。 「勝手に、燃料補給って呼んでるんです。」 キャッチーなフレーズを少し気恥ずかしそうに教えてくれた。 仕事で関わる人たちのエネルギーが、自分ももっといい仕事ができるようにと思うパワーに繋がっているそう。 入庁してからの4年間で、ご自身のあり方に変化が起こっているという。 以前の担当課で、がむしゃらに仕事に向き合い、経験も重ねた頃。 課の上司から「あんまり成長しなかったね」と言葉をかけられた。自分でも思っていたことだった。 それに続くように尊敬する人から言われた言葉は「自分の軸がない」。 「悔しいなぁって思ったんですけど。でも本当に自分を真正面から評価してもらえたなって。そういう人に出会えたことがありがたいなって思ったんです。」 金子さんの言葉に力がこもる。 その真摯な姿勢に、若きビジネスパーソンの成長を見る思いがした。 二人からの言葉をきっかけに「自分で考えて、自分の意見を持つこと」を通して、自分の足りない部分と向き合ってきた金子さん。 言葉にするのは簡単だが、実際どうやって変われたのだろう。 「全然まだ変わりきれてないんです。慌てて変わってる途中なんですよ。」と言いながらも、その表情は晴れやかだ。変化の途中であることを前向きに捉え、楽しんでいることが伝わる。 金子さんは、産業振興課という枠にとらわれず、ひとりの市職員として新たな取り組みにもチャレンジしているそう。 枠にとらわれない――。 「純粋に仕事量が多い少ないっていうよりも、仕事の質そのものにすごく悩んだ時期が去年ぐらいにありました。」と振り返る。 「文句とか不満を言うのはめちゃくちゃ簡単なんですけど、自分の性格上、どうにかできるものはどうにかしたいっていう思いがあって。結局根っこをたぐっていったら、私一人とか部署一つじゃなかなか解消しない大きな課題だったんです。」 そんな中ではじめたのが、新規採用職員向けの研修の企画・運営だった。 「物事をしっかり考えれるように、私もまだ全然できてないんですけど。でも、そういう想いで、企画をしています。」 これから入庁する職員が、自分で考える力を早くから養い、前向きに働いていける職場を目指している。 「金子さんは、いい意味で欲張り。自分の叶えたい状態を実現させるために全力で走る人。」 そう語る市職員の小倉さんは、金子さんが奮闘する姿を間近で見てきた。 「良いところは、純粋なところ。少年だからね〜。」 金子さんが尊敬し、慕っている原口さんは、そう語る。 まさに、見つけた課題に対して、まっすぐ向き合う全力少年。 とはいえ、自分の仕事の業務の範囲を超えたことに、時間や頭を使うことに抵抗はないのだろうか。 「やらないとまずい、と思っているからですよね。誰かがやらないといけない。」 大きな問題に取り組む腰は重い。 けれど、今からはじめないと間に合わない。 そんな焦りを抱えながら「とりあえずやってみよう。」を大切に動いているそう。 金子さんを、そこまで動かす原動力は何なんだろう。 「大牟田全体がこのままじゃダメになっちゃうんじゃないかっていう、大きな焦りもあったりします。」 組織や地域に目を向け、行動に起こしている金子さん。 「地元が大牟田っていうのは、結局一番大きいのかなって思います。」 支えてきてくれた人への恩返しをしたい、まっすぐな想いを伝えてくれた。 「大牟田、好きですか?」 迷いのない返事が即答で返ってきた。 「大牟田、好きですよ。もちろん。」 取材を終えて外に出ると、白かった空は清々しい青に変わっていた。 大牟田に懸ける想いは、決して派手なものではない。 「焦り、不安、そして自分自身の成長」 しかし、地元・大牟田を案じ、日々の小さな一歩を積み重ねる姿には、たしかな力強さがある。 冬の陽光に照らされた大牟田のまちなみを見つめながら、その未来に、大きな可能性を感じた。