9月の朝もやが晴れていく長与町。2000年に理学療法士となり、その後バックパッカーとして世界へ飛び出した貞松徹さん。今は地域に根ざした福祉事業を手がけています。穏やかな時間がながれる町で見つけた、新しい今の生き方について話を聞きました。「長崎で生まれ育ちました」そう語り始めた貞松さんが、初めて長崎を離れたのは沖縄でした。そこで出会ったヨットに乗る人々の生き方に魅せられ、25歳のころ、バックパッカーとしてニュージーランドへ旅立ちます。「太平洋での暮らし方や冒険がとてもかっこよく見えて。自分もそんな自由な生き方に憧れたんです」約1年間のワーキングホリデーは、貞松さんの価値観を大きく変えることになったそう。けれど、その後の仕事に物足りなさも感じていたといいます。「1年ごとに仕事がリセットされていく。それなりの価値はあったけれど、将来に何も残らない気がして。それが辛かったんです」そんなとき、故郷である長崎という場所を、新たな目で見つめ直します。「長崎を、改めて自分の選択として選び直したんです」2014年、社会福祉法人 人ながよ光彩会の設立に携わり理事に。2020年には「みんなのまなびば み館」を開設し、多文化環境を活かした福祉事業の企画運営を担当することになります。2022年には理事長に就任し、翌年には新たな福祉事業や公共交通との連携プロジェクト「GOOOOOOOD STATION」を始動させました。ただ、長与での暮らしに戸惑いがなかったわけではありません。「長崎に戻ってきたとき、周りとのスピード感の違いに苦労しました」でも次第に、長与という町のゆったりとした時間の流れが、心地よく感じられるようになってきたといいます。「最初は周りとの時間感覚の違いにストレスを感じていました。でも、この町で過ごすうちに、時間の流れをより深く感じられるようになってきたんです」焦る必要はない。むしろ、この町のペースで生きることで、新しい可能性が見えてきた。「以前は急いでばかりいて、周りの状況にストレスを感じていました。でも今は、このリラックスした時間の中にこそ、大切なものがあると気づけたんです」少しずつ変化していく中で、自由さを感じられるようになった貞松さん。その視点は、福祉の現場でも活きているといいます。「時間にゆとりができたことで、本当に大切なものが見えてきました」そう語る貞松さんの活動は、地域に深く根ざしたものになっています。2020年に開設した「みんなのまなびば み館」は、多文化環境を活かした福祉の拠点として、地域の人々が自然と集まる場所になっていきました。「長与の、そして長崎の持つ多様性を活かしていきたかった」と話します。2023年に始動した「GOOOOOOOD STATION」は、福祉事業と公共交通を結びつける新しい試み。この事業にも、地域の時間の流れに寄り添ってきた経験が活きているといいます。「長与という町には、人々の暮らしに寄り添う時間の流れがあります。その中で、本当に求められているものは何か。それを一緒に考え、形にしていく。そんな仕事ができることがうれしいですね」海外での自由な暮らしに憧れた当時の青年は、長与町という舞台で新しい可能性を見出しています。焦らず、でもしっかりと前を向いて。それは、長与という町が教えてくれた生き方なのかもしれません。