看護師からパーソナルトレーナーへ。 身体づくりで感じた、気持ちの変化を広げたい。

静岡県磐田市では田んぼに水が入りはじめ、季節の移ろいを感じる時期。

磐田市の川の写真

東海道新幹線が水田の横を颯爽と通り過ぎていく様子は、この地域ならではの春の風景をつくり出しています。

季節の変化とともに、人々の生活にも新たなリズムが生まれるころ。

「今年も大会に出るので、減量はじまりました」

そう話す大石颯希さんは、看護師からパーソナルトレーナーへ転身。2ヶ月ほど前までは市内のクリニックで看護師として勤務していた。

大石さんの笑顔の写真

「小さいころから、ぽっちゃりしていて。いろんなダイエットをしたことはあったんですけど、失敗やリバウンドばかりでした。看護師の国家試験あたりから、さらにストレスで太ってしまって。結婚式のウェディングドレスの写真を見たときに、ドレスを着こなしているとはいえない状態だったのがすごく心残りでした」

人生の晴れ舞台、楽しかった思い出とは裏腹に、カタチになるものに後悔がうまれてしまった。

「そのあと仕事のストレスなども重なって、うつ病を発症して休職した時期もありました。そのころは本当に自分のことが嫌いで。なにも成し遂げられない、なにをやってもダメな自分がすごく嫌いでした」

心が疲れてしまい、自暴自棄になっていた大石さん。周囲のサポートもあり、仕事への復帰が叶った。

結婚生活を送るなかで、子どもを望む気持ちが芽生えはじめたころ。医師から「肥満が不妊の原因になっているかもしれない」と指摘を受けた。

「そこで踏ん切りがついて、少しダイエットをしました。半年不妊治療をして、子どもを授かることができました」

「出産後、この子に”きれいなママ”だと思ってもらいたくて、本格的に体づくりをはじめました」

出産前のダイエットは体重を減らすことばかり考えていたけれど、産後は”健康的に”を大事にするようになった。

「子どもが小さいので、YouTubeやインターネットで自宅でできるトレーニング方法を調べて。とにかくコツコツやるってことを目標にしていました。私はもともと三日坊主な性格なので、『1日1分でも運動する』『今日はこれだけはやる』といった小さな目標を決めて、それができた自分をしっかり褒めるようにしていました」

慣れない子育てで、思い通りにいかないこともたくさんあった。

『きれいなママ』って思ってもらいたいという気持ちに加えて、結婚式で後悔が残ったあのウェディングドレスをもう一度着て、今度は子どもと一緒に写真を撮ることを目標に掲げた。

産後、20kgの減量を達成し、もう一度ウエディングドレスを着るという目標を叶えた大石さん。

「ウェディングドレスを着ることが目標だったんですけど、着た瞬間、すごく幸せな気持ちになって」

その喜びは、大石さんに次のステップを踏み出す力を与えた。本格的な体づくりへの挑戦が、ここから始まった。

「ウェディングドレスを着るっていう目標を達成したので、新しい目標が欲しいなと思ったんです。もともとトレーニングで見ていたYouTubeでボディメイクの大会があることを知ったんです。大会に出られるような身体になろうと思って、本格的にジムに通ってトレーニングをはじめました」

そうして、サマースタイルアワード名古屋大会に出場し、4位入賞。

大会に出て感じたことは身体の変化だけではなかった。

大石さんのトレーニングの様子

「舞台でポージングをすることはもちろん楽しかったんですけど、それ以上に、大会に出ていた人たちが本当にキラキラしていて。

それぞれ生活や悩みは違っても、ひとつの目標に向かって、自分らしさを大切にしながら頑張っている人ばかりだったんです。

私自身も身体づくりを通して、気持ちの面でもすごく変わったと感じていたので、そんな人たちとお互いに刺激し合える関係を、これからも続けていけたらいいなと思いました」

その後、県内の大会での部門優勝をきっかけに、より身近な仲間から刺激を受けながら身体づくりに励んだ大石さん。

看護師として患者と向き合うなかで、病気を防ぐ「予防」の重要性も実感するようになった。

「そのときは透析のクリニックで働いていたのですが、患者さんは週3回4〜5時間ほど、透析をするんです。それがない日も他の病気で病院へ通って忙しいと話していました」

「過去に留学経験があった患者さんが、その留学先の友人から遊びにおいでと誘われたけど、透析があるから断ったと悲しそうに話していて。そんな話を聞くうちに、病気が悪化する前に、健康的な生活を通じて”その人らしい時間”をもっと持ってもらいたいと強く思うようになりました。それが私の好きなトレーニングを通じて、なにか形にできないかと思いはじめたんです」

そんな患者さんの言葉に触れたのは、ちょうど大石さんが「次になにを目指そうか」と考えていたタイミングだった。

「健康寿命を伸ばすような活動ができたらと思って、ネットでいろいろ調べていたんです。そんなとき、 たまたまInstagramで”オンラインパーソナルトレーナー募集”の投稿を見つけて。”話だけでも聞いてみようかな”っていう軽い気持ちで応募したら...それ、実は面接だったんですよ(笑)」

面接だとは知らずに、これまでの経験や、これからやってみたいことを素直に伝えた。

「すると、その場で”合格です”と言っていただいて。実は、夫にもまだ話していなかったので、ちょっと焦りました(笑)」

現在はオンラインパーソナルトレーナーを中心に、磐田市内で産後のママさんを対象とした姿勢改善の教室を開催。人とのつながりを大切にしながら、日々試行錯誤を重ねて活動を続けている。

自身の経験を通して、仕事や子育てに追われる日々のなかでも、“自分らしく生きる”ことの大切さを伝えたいと思っているそう。

「私も最初は「とりあえず体重を落とすこと」ばかりを考えていて、健康的な身体づくりに気付くまで時間がかかりました。だからこそ、仕事や育児に忙しい人たちにも、自分に合った健康との向き合い方を見つけてもらうために、私の経験を役立てられたらと思っています」

体型の変化に悩む産後の女性や、育児に追われて“自分らしさ”を見失っている人たちにこそ、大石さんは伝えたい思いがある。

大石さんとお子様の様子

「ママであっても、一人の女性であることに変わりはない。だからこそ、自分らしく生きていいんだよって」

見た目だけでなく、心の変化を実感したからこそ、その前向きさは家族にも伝わっていく——

そんな循環が生まれることが理想だという。

そして最後に、自分らしくいられる時間について聞いてみた。

「お客さんが結果を出したり、変化を報告してくれたりすると、やっぱり嬉しいですし、自分の自信にもつながります。表情とか、言葉となって自分に返ってくるんですよね。それに最近では、子どもが「ママがんばってるね」とか「応援してる」って言ってくれることが増えてきたんです」

周りの人たちの変化を実感できる瞬間こそが、大石さんにとっての『いいわたし』。

海辺でストレッチをする大石さん

大石さんの歩みから見えてくるのは、小さな成功の積み重ねが、人生に少しずつ変化をもたらしてくれるということ。

水がゆっくりと田んぼに染みわたるように、日々の小さな努力が、心の中にも穏やかに広がっていく。

春の風景が少しずつ色を変えていくように、人の気持ちも、焦らずゆっくりと変わっていくもの。

完璧じゃなくても、立ち止まることがあっても大丈夫。

また前を向ける。その力があることを、大石さんの今の姿がそっと教えてくれた気がした。

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