踏み出す力をくれたのは、このまちの「人」だった。 地域おこし協力隊の軌跡とこれから。

「今日は定林寺(じょうりんじ)のあじさいを撮影して、そのあと取材先のお店へ向かいます。」

カメラを片手に、今日のスケジュールを説明するのは兒玉 亮(こだま りょう)さん。

2023年1月から大牟田市の地域おこし協力隊として活動を続けている。

地域おこし協力隊として最後の1年

「地域おこし協力隊」という制度を、一度は耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。

2009年度から総務省が開始した制度で、都市部から過疎化の進む地域に移住した「協力隊員」が自治体の委嘱を受け、地域の問題解決や活性化のための活動に携わる。

兒玉さんもそんな協力隊員のひとり。

主な業務は大牟田市の観光情報の発信。

大牟田市の公式観光サイト「おおむたOne plate」の運用や、Instagramでの情報発信を担当している。

地域おこし協力隊の任期は3年。

2026年1月に任期が終わるため、兒玉さんにとっては今年が最後の1年だ。

「自分で学んだことを試したい」そんな思いから応募

地域おこし協力隊になる前は、医療事務をしながら、独学でウェブサイト制作を学んでいた。

あるとき、友人から地域おこし協力隊という仕事があることを聞いたという。

調べていくなかで、大牟田市の観光ポータルサイトの運営管理を主な業務とする地域おこし協力隊の募集に出会う。

「募集要項を見たとき、独学でやっていたウェブサイト制作やデザインの力を試せる機会になるんじゃないかなと思ったんです」

宮崎県都城市出身の兒玉さんは、これまで熊本、岡山など複数の場所を移り住んできた。

学生時代には、大牟田市の隣、みやま市に住んでいたこともあったそうだ。

しかし、大牟田市の一大行事である「おおむた『大蛇山』まつり」すら知らないほど、大牟田についての知識はなかった。

そんな土地で始める新しいチャレンジが、この地域おこし協力隊だった。

何から進めたらいいのか、わからなかった

ウェブサイトの運営管理やデザインのスキルを深めていきたい思いがあった一方、直面した壁は「取材」だった。

営業経験がないなかで、お店やイベントを探し、自らアポ取りをすること。

まだ関係性がない地域の方に、時には踏み込んだ質問もしながら話を聞くこと。

目の前にある商品や場の魅力がしっかりと伝わるように、撮影をすること。

着任前には想像しきれていなかった、サイトの運営管理に付随する多くの業務は兒玉さんにとって初めてのことばかりだった。

「実は、人見知りなんです。着任当時は、本当に何から進めればいいかがわからなくて、1店舗目の取材もなかなかその一歩を踏み出せなかったんです」と振り返る。

アポの取り方、取材での会話、写真の撮り方。すべてが手探りだった。

 支えになったのは「人」だった

はじめこそ苦手意識のあった取材だが、今では、おおむたOne plate とInstagramを合わせると、月に10本近くのコンテンツを作成し続けている。

「大牟田の人は、明るいというか、“あったかい”んです。取材依頼をすると、まちの皆さんが快く協力してくれることに気づきました。そのおかげで、初めは戸惑っていた取材も、安心してどんどん進められるようになっていきました」

挑戦に必要なのは、実は「勇気」じゃなくて「安心」なのかもしれない。

知らない土地での新しい挑戦。

簡単には動かなかった一歩も、

地域の人たちとの関わりを通して、

少しずつ、踏みだすことが怖くなくなっていった。

「取材先を考えるときにも、地域の人たちがきっかけをくれることがあって。『この人は知ってる?』みたいなかたちで、教えてくれるんです」

はじめは大牟田のことをほとんど知らなかった兒玉さんも、今では大牟田の飲食店やスポットを知り尽くした存在になった。

地域おこし協力隊の前担当である、市職員の直井さんは「兒玉さんは、大牟田の観光に欠かせない存在」と語るほどだ。

ここで暮らし続けたい

地域おこし協力隊の任期は2026年1月まで。残り1年を切っている。

「任期終了後も、大牟田定住を目指してるんです。そのために、いまは自分で仕事を作っていってます」

その理由を聞くと、迷いのない答えが返ってきた。

「交通の便がいいとか、買い物するところがたくさんあるとか、生活の利便性も大きいんですけど、やっぱりここでいろんな人と出会ってきたので、そのつながりを大事にしたいなっていうのが大きいですね」

慣れない環境で背中を押してくれたのも「大牟田の人」

そしてまた、ここに居続けたいと思わせるその理由もまた「大牟田の人」にあった。

人見知りだった青年は、やがて大牟田の魅力を誰よりも深く知り、伝える存在となった。

今度は大牟田の一員として、このまちの未来を一緒につくっていく。

(2025/06/12 取材 山本和果)

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