気温はおよそ15℃と鳥取の冬にしては少し温かい1月のとある日、汽車に揺られて着いたのは用瀬(もちがせ)駅。車で向かってもさほど時間は変わらないが、今回は汽車で行くことにした。汽車では向かえない地域もあるが、用瀬には駅があるのも一つの特徴。
お目当ては、以前取材の際に撮影で場所を利用させていただいたカフェでランチを食べること。
用瀬町に初めて訪れたのは「流しびな」という伝統文化の継承に携わる方に取材するため。鳥取県東部では、ほとんどの地域では廃れてしまったこの文化も、用瀬では江戸時代から途切れずにずっと受け継がれてきた。そんなきっかけで知ったため用瀬町の第一印象は「伝統文化大事に受け継ぐ地域」だった。

以前来た時は、取材でバタバタとしており、用瀬の空気を存分に味わえなかったので、この日を楽しみにしていた。用瀬駅に到着。ICカードが使えず、車内で現金払いする仕様に少し戸惑ったが、なんとか下車をする。下りたのは、私ともう一人だけ。
まず向かったのは、今回の目当てでもある「takemuratei」。カルチャーな雰囲気溢れる店内と、明るく優しく出迎えてくれる店主が印象的なお店。

アジアンプレートを注文し、店主とたわいのない会話をする。移住者だという店主、この場所は空き家を改装したという。1階には一段上がった場所があり、そこをステージにライブもできるようになっている。
店内で過ごすと、常連のお客さんがきて、自然と会話が生まれる。横に流れる瀬戸川の音がちょうどここちよく時間を忘れて、のんびりと過ごしてしまった。とても居心地が良い場所だったので、今度はお茶を楽しみに来たい。
お店を出て、少しだけ用瀬を歩いてみることにした。かつては宿場町として栄えた用瀬町は、その名残か通りが真っ直ぐで、遠くから来る人がよく見える。
また、町屋と言われる店舗と住宅が一緒になっている木造建築が今も転々と残っている。キラキラした観光地のように、木造建築が立ち並ぶというほどではないがそれがどこか落ち着く。

すれ違う人はまばらで、大根を自転車にくくった方が「こんにちは」と挨拶をしてくれた。自然とあいさつが生まれる空気感にホッとする。通りを歩いていると時々出現する小道にも少しワクワクしながら散策をした。
この日にすれ違った方は数えるほどだったが、さっきまでいたカフェの店主が言うには、流しびなを川に流す「流しびな行事」や、「いなば用瀬宿横丁さんぽ市×トットリ式屋台楽宴プロジェクト(通称 さんぽ市)」などのイベントの際にはたくさんの人で溢れかえるという。
そのまま進んでいくと、見つけたのはジェラート屋さん「ジェラートショップmama mia(マンマミーア)」。季節は冬、だけどこの日は少し暖かかったので立ち寄ってみることにした。
これまでの用瀬の雰囲気からしたら、店内にネオンが光るそのお店は少しだけ意外な印象を抱いた。用瀬町出身の店主に話を聞くと、隣のキャンプ場のお客さんや、近くの運動公園で部活動を終えた学生がルーティンのように来るそう。部活帰りに、ジェラートとはなんとも羨ましい。

気づけば日が暮れて来てしまったので、汽車の時間を調べて帰ることにした。

用瀬町は、「流しびな」を長く受け継いできた地域だ。町屋が残り、かつて生活用水として使用していた瀬戸川に流れる川は、鮎なども生息できる綺麗な川として残り続ける。会う人は多くなかったが、歩いていると用瀬の昔からあるものを大切につなぐ空気感を感じる。
一方で数年前にできたというジェラート屋さんは地元の学生を含め地域に愛された場所になっている。新しいものや、外から来るものに抵抗感がないのは、かつて宿場町だった場所だからだろうか。
昔からあるものを重んじながら、新しい風も許容しその静かながらも温かい空気が用瀬の居心地の良さだと感じた。