絵を描きたい気持ちで絵本作家へ。 らくがきノートの中で変化していった「いいわたし」

「ネコ、大好きです。なんかふわふわしていてかわいいです」

そう話すのは、静岡県磐田市在住の絵本作家・イラストレーターのよこただいすけさん。

東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。卒業後渡米し、Art Center College of Design グラフィックデザイン学科を卒業。

2020年に磐田市へ移住。現在は絵本作家・イラストレーターとして活躍。

著書に「私はネコが嫌いだ。」「ニャンコどこいった?」「いぬとねことたからもの」2024年夏には自身4作目となる絵本「ババーチョル」を出版。イラストの仕事はベネッセコーポレーションのこどもちゃれんじ「しまじろう」を中心としたキャラクターなどを描いている

「妻からよく言われるのが、絵が好きなんじゃなくて、かわいいものが好きなんだよって。言われてハッとしましたね」

その言葉の背景には絵を描くことはもちろん好きだけど、題材としてかわいいものを見たり、自分でこんなかわいいものを作れたという喜びがあるのだという。

今回は、よこたさんが絵本作家になったきっかけと絵本への想い、移住地域での暮らしについて伺いました。

絵を描けない現実、変わることを決めた先輩のひとこと

最初から絵本作家を志していたわけではなかった。

「幼少期から母親の美術教育的な、この子はもう絵の道へ、みたいなものがあって、美術大学まで進学しました。絵を描くことは好きだったので、ただ絵を描きたいと思って美術大学やアメリカ留学までして帰ってきて、デザイナーとして就職しました」

 学校を出たらデザイナーになるものだと思っていたため、そこまでは違和感を持たず進んでいたという。

しかし実際に働いてみると、絵を描くチャンスがないことに気づく。

イラストレーターに発注をして上がってきたものをデザインと組み合わせる仕事。楽しさは感じていたが、ある日先輩デザイナーが「実は絵本作家になりたかった」とつぶやいた。

その姿を見てこのままだと、いつまで経っても絵が描けないと思い辞めることを決めた。

そうして何をしようかと考えていたとき、見つけたのが絵本のコンクールだった。

作品のアイデアは知らない人の話

「一応一つアイデアがあって、それが一冊目の『私はネコが嫌いだ。』っていう本なんですけど、応募の期限まで全然時間がなかったんです」

そのアイデアは、意外な場所から生まれた。

「当時のSNSで全然知らない人の、うちのネコが死んじゃったみたいな記事を読んで、なぜかものすごく感動しちゃって。心に残っていたんです」

その愛情の表現として頭に浮かんだのが、頑固なおじさんがネコを世話しているうちにどんどん愛情が湧いてくるという物語だった。

「そのときにおじさんの顔のアップで涙を我慢しているシーンとネコの顔のアップが見開きであったらいいなっていうのが浮かんで、その二つのシーンを絵本として繋げるためにどうしようっていうのを考えながら、絵本を組む時に詰めていきました」

そうして急いで書き上げて、コンクールに応募したところ賞を取って実際に絵本を出版へ。

絵本作家としての人生が始まった。

絵が描きたい、だから選んだ絵本の魅力

もともと本が好きだったよこたさん。

絵本の魅力について、「本なのに絵がいっぱいあって、表紙から裏表紙まで全部自分の好きな絵にできる。作品集とかよりも絵が多いんじゃないかと思います」と語る。

「自分の絵がいっぱいのものを出したい」という思いが、自然と絵本という形に結びついた。

妻の故郷、磐田市への移住

現在住んでいる静岡県磐田市に移住したのは2020年、コロナ禍の真っ只中のことだった。

「たまたまアパートの更新のタイミングで、そろそろ違うところには行きたいねという話をしていたんです。どうしようってなったときに、妻の姉から磐田市の家の紹介を受けて、来ちゃいなよって」

アパートの更新通知と妻の姉からの誘いが、1週間の間に来たという。

「何度か訪れていた磐田市自体はものすごく気に入っていたので、移住自体はすごく乗り気でした」

「実際に住んでみて、住宅とかまちの密度具合、自然とのバランスが良くて。あと車中心の生活も。運転好きだったので、車を毎日運転できることも幸せでした」

地域で暮らすこと、働くこと

移住後、創作活動に劇的な変化があったわけではないが、「日々のストレスがすごい癒される」という変化があった。自然からのインスピレーションで、近くの川で観察していたカメやカモを作品に登場させることも。

地域で仕事の性質も変化した。

「絵本作家がいるっていうことが珍しさを感じてもらえたみたいで、声をかけてもらうことが増えました」

人から人へと繋がり、異業種の人と話すことも増えたという。

特に大きいのは磐田市に来てから、絵本作家・イラストレーターであるよこたさんへのお仕事として、「自分らしさを求められる仕事」が増えたこと。

「自分が普段から描いてるようなものを求められる仕事がいただけるのは、単純に嬉しいですよね」

渚の交流館に設置された海岸ごみ集積ボックスのイラストを担当

移住をして5年、今年は市内の図書館とコラボレーションし、子どもに向けのお絵かきワークショップや、大人に向けたイベントも開催。

磐田市市制20周年記念事業として開催された「よこただいすけ・かかずゆみ 絵本の世界」の様子

よこたさんの活躍が地域の可能性を広げていく。

自分らしさ、充実した時間を過ごせるわたし——

磐田市が掲げる『いいわたし』というメッセージ。

そこには『わたし』が磐田市とのつながりで人生をもっと良いものに、充実させて欲しいという意味が込められている。

 よこたさんに「自分らしさ」について尋ねると、興味深い答えが返ってきた――

「自分をコントロールできているか、いないかが一番大きいなって思っていて、僕の場合その中心にあるのが、らくがきノートをつけること、文字でも絵でも何でも書くんです」

 感情をぶつけたり、模写をしたり、言葉を辞書で調べたり。いろんな場所を行き来する「ごちゃごちゃごちゃごちゃ」した時間が、一番自分らしい時間だという。

 「本当は絵を描いている時間が自分らしいって答えたいなと思ったんだけど(笑)本当に良いときって無心でやっていることの方が多くて」

 以前は怒りを書き出すことも多かったらくがきノートにも、変化が現れている。

「磐田市に来て怒りが減ったんです。日常的に100怒ってたとしたら、たぶん2、3ぐらいまで減っていると思います」

2020年のコロナ禍という激動の時期に磐田市で見つけた、心穏やかな日々がらくがきノートの中で『いいわたし』へと変化しているのかもしれません。

よこたさんの動画はこちらからご覧いただけます。

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