「人と人とのつながりが、健康につながる」 静岡県磐田市役所で保健師として働く伊藤貴規さんは、地域活動を通して実感した健康のつくりかたを体現している。 2025年1月某日、遠州名物のからっ風が吹き荒れる中、伊藤さんが勤務している磐田市総合健康福祉会館iプラザを訪ねた 。『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員AWARD2024』を受賞した伊藤さん。てっきり取材に慣れているのかと思いきや、「動画はないんです、いつも静止画です」と少し緊張した表情で迎えてくれた。浜松市天竜区生まれ、高校生の時に磐田市へ。中学までは同じ人間関係の中で過ごしてきたそう。磐田市内の高校への進学をきっかけに周囲の人間関係がガラッと変わった。 「磐田にはポジティブなイメージしか持ってなくて。おもしろいまちだなって高校生の時に感じました」この一言が、現在の伊藤さんの原動力にもつながっている。 幼い頃、共働きの両親に代わって、面倒を見てくれた祖父母への恩返しの気持ちが、医療系の道を志すきっかけとなったそう。 磐田から出て暮らしてみたいという気持ちはなかったのか。 「祖父母と一緒に過ごしたい気持ちの方が強くて。外に出るのはいつでもできるかなって思っていました」と磐田市から通学ができる県内の看護大学への進学を決めた。 大学卒業後は看護師として2年間、救命救急センターで働く。救命救急センターでの勤務で大きな気づきを得た。 「それまでは自分だけのために生きていたんですけど、命って限りがあるんだなって実感しました」2年間の看護師としての勤務を経て、伊藤さんは保健師になることを決意する。「看護師」と「保健師」の違いってなんだろう。 WHOが定義する健康には、身体的な健康・精神的な健康・社会的な健康の3つの側面があるそう。「身体的な健康や精神的な健康は個別にアプローチできる。でも、社会的な健康、すなわち社会全体の健康は、人と人のつながりで健康になっていくこと。これは病院の中ではアプローチが難しい。って実感しました」 命に限りがある、そこから一次予防の重要性を意識していた伊藤さん。学生時代に、保健師の実習が楽しかったこともあり、将来的には保健師にチャレンジしたい気持ちは持っていたという。 そんなとき、磐田市の保健師募集を知った。高校時代の磐田へのポジティブなイメージから、磐田で働いたら楽しくなると確信していたそう。「求人を見たときは、『きたっ!』と思いました(笑)」 そんな前向きな思いとは裏腹に、一度不合格通知を受け取った。「実は、最終試験で落ちていて不合格通知届いているんですよ。その1週間後に連絡きて、やっぱり合格だよって言われて(笑)。繰上げ合格ですね。磐田市には拾ってもらったんです」 そんな紆余曲折を経て、念願の磐田市役所の保健師となった。 しかし、保健師となった当初は新たに生まれたモヤモヤする気持ちを抱えていたそう。 「今死んだら後悔するなって思ったんですよね。自分はまわりに何もできていないんじゃないかって思って。今まで成長させてもらったけど、自分は誰かに還元できているのか、このままでいいのかっていうのがあって、でも何をやればいいかは自分でもよく分からなかったんです」 その思いは、幼少期に祖父母に良くしてもらった経験からきているという。 そんな伊藤さんに転機が訪れたのが、【いわたゆきまつり実行委員会】への誘いだった。「いわたゆきまつりに関わってみたら、本当におもしろくて。ゆきまつりの会場全体が来場された皆さんの笑顔であふれていて。その場をつくっている自分たちも笑顔になって。こういう健康のつくり方があるんだなって実感しました」 ゆきまつりの活動を通して、人と人とのつながりによる「社会的」な健康のつくり方を実感した。さらに、冬の活動に限定される「ゆきまつり実行委員会」だけではなく、「若者いわたネットワーク」を立ち上げ、地域活性化の取り組みをおこなっていく。 入庁後の、モヤモヤした気持ちが晴れたとき、また新たな転機が待っていた。「健康増進課(保健師)」と「秘書政策課」との兼務を命じられ、シティプロモーションの立ち上げという新たな挑戦をすることになった。 保健師なのに、シティプロモーション。異分野すぎる辞令に戸惑いはなかったのか?「最初はかなりびっくりしましたけど(笑)当時の市長から『とにかく楽しんでやってみればいいから』って言われて。だから、『楽しんでやろう』って思って。若手にそういうチャレンジをさせることが、将来的な市のためになるってきっと思ってくださったのかなって」 現在は、健康増進課に戻り、『地方公務員が本当すごい!と思う地方公務員AWARD2024』を受賞。また磐田市役所内、後輩保健師の育成にも力を入れている。「磐田を日本一健康なまちにしたい。でもそれって、すごく曖昧なんですよね。具体的な指標とかがあるわけじゃない。だから今日よりちょっといい明日をつくっていく。っていうのが目標です」 「今日よりちょっといい明日をつくる」高い目標には少し気持ちが窮屈になりそうなときがある。「今日よりちょっといい明日をつくる」という言葉は、気持ちが少し楽になりそうな言葉だ。 最後に、伊藤さんの夢を聞いてみた。「いろんな人とのつながりを通して、自分は成長させてもらいました。僕がハブになっていろんな人をつなげて、もっと磐田がおもしろいまちになっていけばいいなと思います」 どこまでも貪欲に、人とのつながりを大切にして行動し続ける伊藤さん。その行動の源泉は、磐田で暮らす人々の健康のためなのかもしれない。そんな伊藤さんのお話を聞いて、心の栄養を与えてもらったような気がします。 「風が強かったですね。寒くなかったですか」伊藤さんは常に磐田市に関わる人の健康を願い、優しさにあふれている。 今日よりちょっといい明日が迎えられますように。