理想の教育実現に向け、たどり着いたまち。地域とのつながりを広げて叶える教育

春風の心地よい4月のある日、静岡県磐田市中泉地区を訪れた。

この地域は小学校や中学校が複数あるエリア、通学時間帯にはたくさんの子ども達の姿や見守りの地域ボランティアの姿がある。通学の賑わいが落ち着いたころ、訪ねたのは『パーソナル学習教室プルート』。

建物の1階にはオープンしたばかりのカフェがある。

階段を登り、教室へと足を踏み入れると光が差し込む開放的な空間が広がっている。

穏やかな笑顔で迎えてくれたのは、塾長の藤田裕也さん。

約1年前まで、東京の公立小学校で13年間教員として勤めてきた。

「小学校の教員として働く中で、年々、担任として子どもたちが抱える問題に直面することが増えていきました。不登校や授業への不参加、授業中に教室を飛び出してしまう子どもなど、自分のクラスだけでなく、周囲の教室でも同じような状況が見られるようになっていました。」

子どもたちが抱える問題――。

「子どもを変えるよりも自分を変えた方がさまざまなことが変わると考えました。子どもとの関わり方や授業の仕方を変えれば、子どもたちがより前向きに学校に通えるのではないかと思いました。そのために自分も色々なことを勉強していこう。研究会やセミナーに参加して知識を増やしました」

「学びの場で多くの先生方との出会いがあり、さらに勉強したいという思いが強くなりました。より本質的なことを求めて教育の枠を超えた勉強会やセミナーに参加するようになり、教育関係者に限らず多くの人と出会いました。数多くの出会いのなかで、静岡県で学習塾を経営している方と知り合い、静岡とのつながりができたんです」

藤田さんは茨城県出身、大学進学を機に上京。

卒業後、東京都の公務員として教員をしてきた。静岡県との接点はこれまで全くない。

「学習塾で働くことは、自分の人生の選択肢として考えたこともなかったです」

自分でも思いがけない選択。理由はなんだったのだろう。

「学習塾を経営されていた方が『塾として子どもの学力を向上させ受験を成功させることはもちろん一つの目標だけど、受験後の人生でも役立つ力を身につける場にしたい』と話をされていて、小学校教員時代の自分の価値観と重なる部分があるなって感じたんです。」

「関わりのない土地ですけど、思い切って飛び込んじゃいました(笑)」

思い切って飛び込んだ背景には、教員を続ける中で感じていた、自分の働き方への違和感が影響していた。

「20代はたくさんのことを勉強して、子どもたちと授業も楽しいものがつくれるようなっていきました。30代になり、つくりたいクラスの理想や、授業で大切にしたいことが自分の中で固まってきたんです。そのタイミングで学校の運営に関わる仕事が増えてきてしまって。自分が思い描いていたキャリアプランよりも10年ぐらい早くやってきたという印象がありました。」

教員の中でも中堅に差し掛かり、思い描いていた教員生活とのギャップを感じた。

「学校運営もやりがいはあったんですが、自分の描いているものに割ける時間が減ってしまうというのもあって。もうちょっと子どもに夢中になっていたいなという思いがありました」

日常で感じていたモヤモヤ、偶然の出会いでたどり着いた静岡県磐田市の学習塾。

塾長としてプルートがオープンしてから約2ヶ月。

藤田さんの叶えていきたい、理想の教育とは――。

「プルートで育てていきたい子どもたちは、自分の人生を自分でつくっていける子たちです。それをプルートでは『未来を自分で切り拓く力』と定義しています。たった一度の人生、自分で納得のいく人生を送って欲しいという思いがあり、そのためには自分で考えることが必要で、自分で行動を起こすことも大切です」

「そこには多くの失敗もあると思いますが、失敗から学んで再びチャレンジする試行錯誤も必要です。そういった経験を通じて『自分の力でできた』という経験を積むと、また新たなチャレンジにつながります。それが連続することで人生が形成されていきます。将来のためや大人になってからではなく、今も人生です。子どもの今を充実させることを大切にしています」

『パーソナル学習教室プルート』では、学童型のため通常の学習塾とは違い、授業を教えるという形ではない。そのため、空間にも工夫が多くあることが印象的に感じる。

「部屋が大きく分けて3つあります。声を交流させながら学べる部屋、黙々と勉強したいときのための部屋、そして勉強以外で過ごす部屋。勉強以外の部屋は広い空間にしているので、レクリエーションやワークショップなども開催を予定しています」

ワークショップやイベントの開催に向け、現在は地域の人たちとの交流を深めている藤田さん。

「夫婦二人だけで磐田市に飛び込んできたので、知り合いがほとんどいない状況からスタートしました。

まずは人間関係づくりからだと思って、イベントに参加したり、SNSや人からの紹介でつながりを増やしています」

「子どもたちに対して私一人でできることには限界があるので、地域の人の力を借りながら教育のかたちを作っていきたい。磐田市は人のつながりが本当に深いと実感しています」

「一緒にイベントをやろうと言ってくれたり、SNSやブログで発信してくださる方も多いです。『一緒に磐田の教育を良くしていきましょう』と言ってくれる方がいて、支えられている感覚も大きいです」

最後に藤田さんに充実感を感じる瞬間を教えてもらいました。

「『ワークライフバランス』という言葉がありますが、個人的には仕事を軸にした考え方が好きなんです。

先日、袋井市で活躍されているサックス演奏家の方と出会い、その延長でサックスのコンサートにお誘いいただきました。お寺の中の仏様に囲まれた厳かな空間の中でのコンサートで、自分のこれまでの生活ではなかなかこの空間には辿り着かなかったのではないかと感じて。

仕事でいろんな方と関わってきたからこそ、今このような時間を過ごせています。仕事をしている延長で自分自身のプライベートや人生全体が充実していくような、そういったことをこれからも大切にしていきたいんです」

仕事を通して、多くのつながりをつくり、人生の充実感を感じるときが藤田さんにとっての『いいわたし』。

東京から磐田へ、教員から塾長へ。

環境は変わっても、子どもたちへの思いは変わらない。

地域とのつながりを大切にしながら、自分らしい歩みを進める藤田さん。

仕事とプライベートの境界線を曖昧にしているから充実した日々を過ごしている。

その姿を通して、思いがけない選択を楽しむ秘訣を教えてもらった気がする。

OFF TOKYO
公式LINE
はじめました
新着記事や動画、最新の
イベント情報をお届けします!
友だち追加はこちら