「友達の家に遊びに行ったような、そんな感覚でお客さんに来て欲しいんです」
そう語るのは静岡県磐田市で「磐田居酒屋 見附オノマトペ」を営み、お店の常連客から「キャプテン」と親しまれる望月涼介さん。

キャプテンのある1日に密着をしたら、みえてきたのは磐田のまちに根ざした人と人とのつながりでした。
13時45分・まちを巡る午後の仕入れ
キャプテンが店を出て最初に向かったのは、10年以上付き合いのあるという福田(ふくで)の魚屋さん「魚徳」。福田は磐田市の南部に位置し、漁港もあり、昔ながらの商店が軒を連ねる地域。
14時30分を目安に数十種類のお刺身がショーケースいっぱいに並ぶため、店内には多くのお客さんで賑わっていた。
「今日はこれを買いに来ました」そう教えてくれたのは「生しらす」。
その他も魚を見て、店主と言葉を交わしながら仕入れていく。魚屋さんでの何気ないやりとりも、このまちで長く商売を続ける人同士の信頼関係を感じた。

次に向かったのはファーマーズマーケット「磐田南部どっさり市」。地元の農家が直接野菜を持ち込む市場で、磐田の豊かな土壌で育った旬の野菜たちと出会う。
「メニューは仕入れてから決めます。このお客さんに、あれ用意してあげたいなみたいなのはあるんですけど。計画ができないんですよね(笑)」
そう話す裏には、お客さんが食べたいものを提供したいという思いがある。
予約の際にリクエストをもらったり、常連さんに「最近メニュー悩んできたから、何食べたい?」と相談したり。そんな会話もキャプテンが大切にしているお客さんとのコミュニケーション。
「友達の家に遊びに行ったような、そんな感覚でお客さんに来て欲しいんです」
その言葉の背景には、都心と比べて何かに特化した専門店が多くあるまちではないという地域の特徴がある。だからこそ居酒屋の自由な雰囲気でお客さんの気分や食べたいものを気軽にリクエストできるようなお店づくりをしたいというキャプテンの想い。
衝撃を受けた居酒屋のサービス
キャプテンが現在の道を選んだのは、ある居酒屋との出会いがきっかけだった。
「もともと地元静岡県清水市の蕎麦屋で働いていたときに、高校のときの先輩が袋井市の宿泊施設で料理人をしていて。料理人足りないから、やってみないかと誘われて。即『行きます』って返事しました」
この迷いのない返事が、キャプテンらしさを物語っている。面白そうなことは恐れずに飛び込む。それがキャプテンのスタイル。
そうして地元を離れ、料理人として働くうちに、お客さんと会話する機会がない環境に違和感を覚えはじめた。そんなとき、JR袋井駅前のある居酒屋に出会った。
「そのお店がお客さんを感動させるとか喜ばせるっていうことをすごくやっていて。例えば寒い日にお客さんの上着のポケットにホッカイロ入れたり、行き過ぎたサービスを提供している感じで。働く人もみんな楽しそうで、衝撃を受けたんですよね」
その店の空気感に魅了され、通うようになった。「こういうお店でいつか働いてみたいな」と思うようになったとき、タイミング良く求人が出て、迷わず飛び込んだ。
その後2016年に磐田に新店をオープンするときに店長を任される。元々独立の考えをオーナーとも共有していたため、5年間店長を務めたのちにお店を買取り独立した。少しずつかたちを変えながらもオノマトペは磐田の地に根付いて9年目を迎えている。
16時15分・青年会議所で広がる地域とのつながり
仕入れが終わり、お店に戻ると仕込み作業に取りかかる。
この日は予約のお客さんから『ポテトサラダ』のリクエストがあった。
仕込みの途中で向かったのは磐田商工会議所。
所属しているという青年会議所の打ち合わせのため向かった。
「近所のコーヒー屋さんの子に誘われて、最初は何をする団体かもわかっていなかったんですけど(笑)言われたからとりあえず入ったみたいな感じです」
何をする団体かもわからないのに、とりあえず飛び込んでいくキャプテンらしさ。
「地域貢献とか、自己成長を目指している団体なので仕事にもつながる。組織に所属するってことをあんまりしてこなかったから、新鮮でおもしろいです」

とりあえずの気持ちで入会して現在4年目、今年は委員長も務めている。
17時10分・食材から生まれるお客さんとの会話
「今日のオススメメニューを設定して、いけるね」
商工会議所をあとにして、慌ただしくモバイルオーダーの設定に取りかかる。開店は18時。
17時45分、団体予約のお客さん数名が早めに到着。
いよいよ「オノマトペ」の営業がはじまる。
冷えたビール、リクエストのポテトサラダ、魚徳さんで仕入れた新鮮な生しらすやお刺身たち。

地元の食材を楽しむお客さんの賑やかな雰囲気が心地よい。
「前食べたチキン南蛮が美味しかったから食べたいなー」
あるお客さんからのリクエストが入り、「いいよ、何個つくる?」と自然な会話がうまれていく。

キャプテンの目指す、友達の家のようなお店づくりがまさに実現している瞬間だった。
「面白そう」なら飛び込んでみる
磐田市が掲げる『いいわたし』というメッセージ。
そこには『わたし』が磐田市とのつながりで人生をもっと良いものに、充実させて欲しいという意味が込められている。
居酒屋の大将という枠をこえて、面白そうと感じたものにはとりあえず飛び込んでみる。そんなキャプテンに今一番楽しいことを尋ねると、少し悩みながら教えてくれた。
「今年からSNSでレシピアカウント始めたんですけど、それが今習慣になってきているので、だいぶ楽しいかなと。あとは人と関わっているのは好きなんで、青年会議所もそうですけど、人と一緒に何かやるっていう機会が増えてきて楽しいなと思いますね」
「店舗でお客さんを待っているだけの商売じゃなくて、イベント出店や同業者とコラボ営業とか。人とのつながりをもっとこれからも意識してやっていけたらいいかな。常にワクワクしていたいですね」
人とのつながりを通じて日々を充実させていく。
「常にワクワクしていたい」と語る姿はまさに『いいわたし』を体現しているように感じました。
「磐田といえばキャプテンだねって言われるようになったら、なんか頑張ったなって自分で思うかな」
地元の食材の仕入れから始まり、青年会議所の地域活動、そしてお店の営業。キャプテンの時間を通してみえたのは、磐田というまちに根ざした人と人とのつながりだった。
このまちで積み重ねてきた関係性が、今夜もオノマトペに温かい空気を運んでくる。

「面白そう」の直感が、行動の合図。
キャプテンの周りでは、いつも新しいドラマが始まっている。
