夕暮れが近づく西海市。専門学校進学のため上京し、福岡でパティシエとして働いた後、12年ほど前に生まれ育った町へ戻ってきました。都会での暮らしを経験したからこそ見えてきた、地元の新しい魅力を拝崎麻衣さんに聞かせてもらいました。「東京での生活は、それまでとは全く異なる環境でした」初めて目にしたスクランブル交差点。行き交う人々の多さに、新鮮な驚きを覚えたといいます。「見たことのないものに出会える新しい環境は、とても魅力的でした」高校卒業後の進路を決めるとき、母から「県外で視野を広げた方がいい」と背中を押されたと言います。夏休みのオープンキャンパスで訪れた東京は、学校だけでなく、環境の違いにも大きな魅力を感じたそうです。東京での学生寮生活は、様々な学校の学生たちとの出会いに恵まれた日々。「同世代との交流があって、あっという間の1年でした」その後、福岡でパティシエとして働きましたが、家庭の事情で仕事を辞め、実家の手伝いをすることに。「都会を懐かしむというよりも、田舎の不便さを知っているからこそ、都会の便利さを実感できました」しかし、地元に戻ったときの感覚は、意外なものでした。「むしろ快適でした。以前は不便だと感じていたことが、実は自由さにつながっていることに気づいたんです」西海市に戻って、新しい視点が生まれたといいます。「不便さは思っていたほどのものではないと実感しました。異なる視点から物事を見られる人は、きっと幸せになれると思います」現在は、家業の飲食店を手伝う傍ら、地域商社でブランディングやマーケティングのサポート、商品開発などに携わっています。地域の企業や事業をサポートし、デザインやデジタル、IT、アプリケーション開発など、様々な分野に関わる中で、新しい可能性も見えてきました。「田舎暮らしや移住による仕事の少なさを、必ずしもマイナスには捉えていません。このような働き方があることを知れば、選択肢は広がると思います」家の近くの海は、拝崎さんのお気に入りの場所です。 「海も美しい。時間があるときによく訪れます。何もせずにゆっくりと過ごせる場所なんです」たしかに田舎ならではの不便さはある。けれど、それは拝崎さんにとって、もはや大きな問題ではなくなっているのかもしれない。都会での経験があったからこそ、地元の魅力が新しい形で見えてきた。夕暮れの海を見つめる拝崎さんの表情には、そんな確かな手応えが感じられました。