小さな一歩を積み重ねて―山が見えない街から、星取県・鳥取市へ

「電車に乗っている時にふと気づいたことがあって。関東平野ってすごく広くて、山がずーっと見えないんです。生まれ住んだところは、近くに山があって、いつも視界に入る感じだったので。」

 

そう話すのは、2025年3月に鳥取市に移住してきた梶谷昭彦さん。

移住する前、横浜から東京へ通勤する電車の中で、いつものように窓の外を眺めていた梶谷さんは、ふとそのことに気づいた。

京都府長岡京市で生まれ育った梶谷さん。近くには西山という山があり、竹林が広がる穏やかな環境で過ごしてきた。大学院を卒業後、東京のIT企業へ就職。仕事は充実していたが、何となく「何かが足りない」という感覚があった。

 

その何かが、「山」だった。

「山が視界に入っているとなんだか落ち着くし、安心するんです」 

 

梶谷さんの趣味は、日本中を旅して風景写真を撮ること。さらに星空が好きで写真を撮るだけでなく、星に関する資格をとるほどだ。そんな旅の中で出会う景色に魅了され「こういうところに住みたいな」と漠然と思いながら過ごしていた。

 

北斗七星とスターリンク衛星 梶谷さん撮影

 

そんな小さな違和感や、旅に出るたびに感じる地方での暮らしへの思いが少しずつ積み重なって行った。

 

 

小さな行動から動き始めた移住

 

コロナ禍を経て、梶谷さんの移住への思いは強くなっていた。周りの友人、信頼できる人に移住について相談をするようになった。

漠然とした移住への思いが少しずつ現実味を帯びてきた。

 

移住先を検討するために、いくつかの地域を回り「ここで暮らせるか」を考えるようになった。その一つが青森県。

あえて雪の深い日に、青森に行き、雪を体験。色々と見て回るなかで住めそうという感覚は掴めてきていた。

青森県八戸市 蕪嶋神社 梶谷さん撮影

「この場所で暮らすなら、どんな仕事ができるだろうって考えたんです。サメが有名な地域だったので、たい焼きじゃなくて、『サメ焼き』はどうだろうって思いついて」

鯛の形ではなく、サメの形のたい焼きを作ることを考えた。

 

サメ焼きを売るために、実際に他にやっているお店はないか調べてみると、同じ東北内ですでにサメ焼きがあることが判明。

「せっかくいい案だったけど、真似したみたいになりたくなくて。それで考え直してみたら、子どもの頃からたい焼きよりも大判焼きが好きだったかもしれない。それで大判焼きにしてみようと思ったんです」

 

そこで、繋がったのが「星」だ。梶谷さんは、以前から星を見るのが好きで、資格をとるほど星について詳しい。星型の大判焼きを作るのはどうだろうと思い始めた。そうなると、青森県である必要はなくなる。そこで浮かんだのが、「星取県」の愛称で知られる鳥取だ。

 

星取県とは、どの市町村からも天の川が見られる、流星群じゃなくても流れ星が見える、手を伸ばせば星に手が届きそうな鳥取の良さを表現した言葉。鳥取は、星好きの梶谷さんにぴったりの場所だ。

 

星型の商品とマッチしていて、しかも鳥取が舞台とされる『因幡の白兎』にもサメが登場するんです。そうしたら、サメ焼きもできるかもしれないとか、色々なことが繋がり始めました」

 

背中を押した意外な景色

 

そうして本格的に鳥取への移住を検討し始めた。まずは、東京で開催されていた移住相談会に行くことに。なんと一番近い日程がちょうど鳥取県だった。

 

「僕が大きな物事を決める時って、一番最初に見に行ったもので決めることが多くて。だから、相談前から『鳥取に行くだろうな』って思ってました」

 

梶谷さんの直感は当たった。

「特に鳥取市の相談員さんと特に話が合ったし、田舎すぎず都会すぎずちょうどいいと思いました」

次に試したのは、お試し定住体験施設。近くのスーパーに行ってみたり、観光を我慢して、鳥取の暮らしのイメージを膨らませる。

 

「その家から出かけようとドアを開けた時、目の前に久松山がどーんと見えて」

久松山は鳥取城跡としても知られる、鳥取市の象徴的な山。

「その空に虹がかかってて、しかも二重の。これはもう鳥取にこいってことかみたいな。後から、虹が見れるのって実は鳥取の気候ではあるあるって知ったんですけど笑」

 

山を求めてきた梶谷さんを迎えるような出来事や、暮らしを体験する中で触れた鳥取の人の温かさに触れ、梶谷さんは移住を決めた。

 

 

移住後のつながり

鳥取に移住してきた梶谷さんを待っていたのは、「鳥取ふるさとUI会」という移住者の交流会だった。はじめは、組織に属することに少し距離を置いていたという。

「少なからず何かしらのしがらみがあったりとか、そういうのはどこでもあるかなと思っていて」

 

移住の相談員さんなど周りの人から勧められ、試しに参加してみることにした。

月に1回、お昼に開かれる交流会。10人ぐらいが集まって、近況を話したり、仕事の話をしたり。

 

「みんな話しやすい人たちで、いいなと思って。居心地がよくて」

2回目、3回目と参加するうちに、入ると決めた。

 

梶谷さんは再就職してから来たわけではなかったため、仕事での繋がりがなかった。鳥取ふるさとUI会に属したことが結果的には一つの居場所になっていた。

 

鳥取市移住・交流情報ガーデンにて

 

悩む時間が移住につながる

 

実際、梶谷さんの行動は「小さな一歩」の積み重ねだった。

 

電車の窓から「山が見えない」ことに気づく。

旅先で「住みたい場所」を探してみる。

周りに相談をしてみる。

移住相談会に行ってみる。

お試し定住体験施設に住んでみる。

 

「移住ってすぐには決められないと思うので、考え続けておくのは大事だと思います。どこかでタイミングが来るから、その時のためにたくさん考えておくのがいいって思います。こういうことがしたいとか、逆にしたくないとか、とにかくそういうことを考えていました」

 

漠然としていた地方への移住は小さな一歩の積み重ねで実現した。

梶谷さんはいつも自分のペースを大事にしている。どうしても周りと比べて焦ったり、不安になったりしてしまいがちだが、きっと自分ペースで考えた先に、後悔のない選択が待っていると思った。

 

 

 

 

 

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