
名古屋商工会議所 商務交流部 ビジネスマッチングユニット 水谷 健太氏
名古屋は、東京のように黙っていても情報や人が流れてくる街ではありません。しかし、入り口を見つけ3人ほど繋がればキーマンにも出会えるくらいコミュニティの距離が近く、意思決定の核心まで驚くほど早く届く街です。拠点進出を検討する企業にとって、名古屋で商機を掴む最短ルートは、自ら「場」に出て、名古屋商工会議所などの街の「ハブ」を最大限に活用することにあります。
名古屋のビジネスの最前線でマッチングを仕掛ける、名古屋商工会議所(以下「名商」)の水谷健太氏に、進出企業がこの街で「信頼できる仲間」になるための具体的な戦略を伺いました。
名古屋進出の成否を分ける名商の
伴走支援と100以上のサービス

水谷 健太氏
ーー:名古屋への拠点進出を検討する企業にとって、名商はどのような役割を担う場所なのでしょうか。
水谷氏:私たち名商は、名古屋でビジネスをされる方の伴走者という位置づけです。販路拡大の重点的な支援はもちろん、融資や経営相談、各種補助金のサポートは私たちの得意領域です。
ーー:具体的なサービスは多岐にわたるとお聞きしました。
水谷氏:はい。名商が提供するサービスは100を超えており、福利厚生からネットワーク作りまで、各社のニーズに応じた提供が可能です。特筆すべきは、創業前からでもご相談いただける点です。「創業塾」などのプログラムに参加いただくと、株式会社等の設立時の登録免許税が減免になるなどの公的制度の活用もサポートしています。
懐に入ればこれほど世話を焼く街はない
ーー:名古屋は少し「保守的」で、外から入りにくいイメージを持つ経営者も多いようです。実際の人となりはどうでしょうか。
水谷氏:各業界のコミュニティに入りにくく見えてるかもしれませんが、一度懐に入れば、驚くほど親身にサポートを受けられます。根底にあるのは「後輩を助けてあげたい」「世話を焼いてあげたい」という強い人情です。
ーー:一度入り込めば、一気にビジネスがしやすくなる、と。
水谷氏:ええ。困っていると「あの人を紹介するよ」という紹介の連鎖が、日々自然に行われています。この点は他の大都市と比べても名古屋地域ならではの特徴ですね。転勤族の方が福岡と並んで「名古屋は住みやすい、ずっと居たい」と口にしていただくことが多いようですが、この密度の高い人間関係と生活のしやすさに起因しているのだと思います。
名古屋の産業は「製造業×IT」へ、
100年に一度の変革が新たな商機を生む

ーー:現在の名古屋の産業にはどのような特徴や傾向があるのでしょうか。
水谷氏:ベースは自動車産業を中心とした圧倒的な製造業の街ですが、今は「100年に一度の変革期」の真っ只中にあります。これまでは「言われたものを作る」という受注型が主流でしたが、今は自社の技術をどう新しい領域に「逆提案」できるかというフェーズに変わっています。
ーー:製造業以外の動きはいかがでしょうか。
水谷氏:ここ10年でIT系やサービス業が確実に増えています。これらは独立して存在しているというより、巨大な製造業をアップデートしたり、付随する課題を解決したりするための掛け算のパートナーとして成長しています。大企業側も、自社リソースだけでは解決できない課題が増えており、外のアイデアやスタートアップの力を渇望しています。
東京に比べて同業種が少ない分、特定のニーズに深く刺さる事業であれば、この密なコミュニティの力で一気に認知が広がるはずです。
名古屋の多様なリソースを、
企業の課題に合わせて最適に活用
ーー:進出企業が名古屋で成長するために、まず何をすべきでしょうか。
水谷氏:名古屋には、商工会議所や行政が提供する多種多様な支援の枠組みや、民間の交流拠点が存在しています。私たちが重要だと考えているのは、企業がそれぞれの課題に応じて、これらのリソースを主体的に使いこなしていくことです。
例えば、販路開拓や広範なビジネスパートナーとの接点を一気に作りたいのであれば、私たちが主催する「メッセナゴヤ」のような場が非常に有効な手段の一つとなります。一方で、日常的に新しい情報や人に触れ、コミュニティの中で深く混ざり合いたいのであれば「なごのキャンパス」のような場所も活用できるでしょう。
企業が今、何を必要としているのか。その目的に合わせて、数ある選択肢の中から最適な解決策やサービスを選び取っていく。私たちはそのプロセスを支え、企業が自らの成長の道筋を見出していけるよう、伴走していきたいと考えています。
メッセナゴヤは売るより
接点を一気に増やすイベント

ーー:日本最大級の異業種交流展示会「メッセナゴヤ」について教えてください。
水谷氏:メッセナゴヤは愛知万博の理念を継承した展示会で、2025年でちょうど20年を迎え、現在は日本最大級の異業種交流の場となっています。2025年の実績では出展844社・団体、来場者50,705人を記録しました。日本はもちろん世界から「このエリアに商機がある」と考える企業が集結しています。
ーー:メッセナゴヤの最大の特徴は何でしょうか。
水谷氏:異業種交流から生まれる新たなビジネス機会と価値創造にあります。業種や業態、規模の枠を超えて、出展者と来場者が繋がりあうことで生まれる「熱量」が高い展示会です。進出企業にとっては、見込み顧客・協業先を一気に獲得できる「最短ルート」になるはずです。
メッセナゴヤの出展で成果を出すなら、目的を受注だけに置かないことです。自社サービスがこの地でどう刺さるかの仮説検証の場として設計すべきです。私たち事務局がしっかり伴走し、効果的なマッチングをサポートします。
なごのキャンパスは毎日誰かと出会える
インキュベーション拠点

ーー:日常的な接点としては「なごのキャンパス」の存在が大きいですね。
水谷氏:はい。なごのキャンパスは名古屋駅から徒歩圏内に位置する、旧那古野小学校をリノベーションしたインキュベーション拠点です。「ひらく、まぜる、うまれる。ローカルにコミットし、多様な社会とフラットにつながる共創プラットフォーム」をコンセプトとしており、スタートアップだけでなく、新規事業を目指す大手企業やフリーランス、そして大学生や地域の方々までが集まり、垣根を越えて交流できるのが最大の特徴です。
私たち名商も運営に参画しており、ほぼ毎日、職員が現地で入居者や来訪者の相談に乗っています。単なるオフィスではなく、異業種が日常的に出会い、そこから新しい共創が生まれる名古屋らしい拠点です。
参考:なごのキャンパス
AI時代を見据え、
学生は特色ある企業を探している
ーー:人材採用の面はいかがでしょうか。
水谷氏:今は極端な「売り手市場」ですが、学生たちの意識も変化しています。親や先生は地元の大企業を勧める場合もありますが、学生側はAIに取って代わられない「自分の特色」を活かせる場を求めています。
ーー:進出企業が独自のポジションを築ける可能性があるということですね。
水谷氏:はい。学生は「自分の力を発揮できる特色ある企業」を探しています。私たちは企業が大学・専門学校・高校のキャリアセンターや進路指導担当者と直接パイプを築けるよう「学校との就職情報交換会」を設けており、進路指導の現場に直接自社の魅力を伝えられるこの取り組みは、多くの企業からご好評をいただいています。
チャンスを求める企業のため、
名商の全職員でサポート

ーー:最後に、名古屋で成功するためのアドバイスをお願いします。
水谷氏:成功しているのは、自社の製品力に加えて、チャンスを掴むために積極的に「場」へ出てくる企業です。待っているだけでは埋もれますが、自分から働きかければ3人繋がるだけでキーマンまで辿り着けるくらい距離の近いコミュニティがあるのが名古屋の良さです。私たち名商は「全職員がコンシェルジュ」というマインドで、適切な相手への橋渡しを全力でサポートします。
プロフィール
名古屋商工会議所 商務交流部 ビジネスマッチングユニット 水谷 健太氏
愛知県津島市生まれ。
2002年名古屋商工会議所入所以降、中小企業支援、知財・青少年育成支援、名古屋のプレゼンス向上のための国際交流、陸・海・空の地域インフラ整備事業を担当。2019年、廃校を利用したインキュベーション施設「なごのキャンパス」の立ち上げ・運営に携わり、スタートアップ支援やオープンイノベーション関連事業を手掛けてきた。
現在は、異業種交流展示会「メッセナゴヤ」をはじめとしたビジネスマッチング事業を通じ、会員企業に出会いの場を創出し、販路拡大を支援している。
(取材・編集・執筆:讃岐 勇哉 / 取材日:2025年12月19日)