地方創生とは?その意味と重要性を解説

地方創生とは、日本の地方が直面する人口減少や経済衰退などの課題に対して、地域の特性を活かしながら活力ある社会を創造する取り組みを指します。2014年に安倍政権下で打ち出された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を契機に、国を挙げての重要政策として位置づけられました。
地方創生の本質的な目的は、地域の自立的かつ持続的な発展を実現することにあります。具体的には、①人口減少の歯止め、②東京一極集中の是正、③地域経済の活性化、の3つが主要な柱となっています。これらの目標達成に向けて、地方自治体や民間企業、NPOなど、様々なステークホルダーが連携して取り組んでいます。
地方創生の重要性は、日本の社会経済構造の変化を背景に年々高まっています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2060年には日本の総人口が約8,674万人まで減少し、65歳以上の高齢者が総人口の約40%を占めるとされています。特に地方では、若年層の流出や高齢化が顕著であり、地域の存続自体が危ぶまれる状況にあります。
このような現状に対し、地方創生は単なる一時的な対策ではなく、日本の将来を左右する重要な国家戦略として位置づけられています。地方の活力を取り戻すことは、日本全体の持続的な発展にとって不可欠だからです。
具体的な取り組みとしては、地域資源を活用した産業振興、観光促進、移住・定住支援、子育て環境の整備、教育の充実などが挙げられます。これらの施策を通じて、地方に「しごと」を創出し、「ひと」を呼び込み、魅力的な「まち」づくりを進めることで、地域の好循環を生み出すことを目指しています。
地方創生の成功は、地域固有の資源や特性を活かした独自の戦略立案にかかっています。全国一律の施策ではなく、各地域がそれぞれの強みを見極め、弱みを克服する取り組みを展開することが求められます。例えば、豊かな自然環境を活かしたエコツーリズムの推進や、伝統工芸を現代のニーズに合わせてリブランディングするなど、地域ならではの付加価値を創造することが重要です。
また、地方創生は行政だけでなく、住民、企業、教育機関など、地域の多様な主体が参画し、協働することで初めて実現可能となります。地域住民が主体的に地域の未来を考え、行動することが、持続可能な地方創生の鍵となるのです。
さらに、デジタル技術の進展により、地方にいながら都市部と変わらない仕事ができる環境が整いつつあります。テレワークの普及やサテライトオフィスの設置など、新しい働き方を通じて、地方移住の可能性が広がっています。こうした社会変化を地方創生に活かすことも、今後ますます重要になってくるでしょう。
地方創生は、短期的な成果を求めるのではなく、中長期的な視点で粘り強く取り組むべき課題です。一朝一夕には解決できない複雑な問題を含んでいますが、地域の未来を切り拓く重要な取り組みとして、今後も注目され続けることでしょう。
地方創生の背景。直面する課題と取り組みの必要性

地方創生が国家的な重要課題として浮上した背景には、日本社会が直面する深刻な構造的問題があります。その中心にあるのが、急速な人口減少と少子高齢化、そして東京圏への一極集中です。これらの問題は相互に関連し合い、地方の衰退を加速させる要因となっています。
まず、人口減少の問題について見てみましょう。国立社会保障・人口問題研究所の2023年の推計によると、日本の総人口は2065年には約8,800万人にまで減少すると予測されています。特に地方における人口減少は顕著で、2020年から2045年の間に、三大都市圏を除く地方圏では約17%の人口減少が見込まれています。
この人口減少は、地方経済に深刻な影響を及ぼします。労働力人口の減少は地域産業の衰退を招き、消費市場の縮小は地域経済の停滞をもたらします。さらに、人口減少は自治体の税収減少にもつながり、公共サービスの質の低下や地域インフラの維持困難といった問題を引き起こします。
少子高齢化もまた、地方が直面する大きな課題です。2023年の内閣府の高齢社会白書によると、2022年10月1日時点で、日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は29.1%に達しています。特に地方では、若年層の流出により高齢化が一層進行しており、介護需要の増加や地域の担い手不足といった問題が深刻化しています。
東京圏への一極集中も、地方創生の必要性を高める要因の一つです。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2023年においても東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は約10.5万人の転入超過となっています。若年層を中心とした人口流出は、地方の活力低下に直結する深刻な問題です。
これらの課題は、地方の経済基盤を弱体化させるだけでなく、日本全体の持続可能性にも影響を及ぼします。例えば、地方の過疎化は、日本の食料自給率の低下や国土の均衡ある発展の阻害につながる可能性があります。また、東京圏への過度の人口集中は、災害リスクの増大や生活環境の悪化をもたらす恐れがあります。
こうした背景から、地方創生への取り組みの必要性が高まっています。地方創生は、単に地方の問題解決だけでなく、日本全体の持続可能な発展にとって不可欠な戦略として位置づけられています。
地方創生の取り組みでは、地域の特性を活かした産業振興や雇用創出、移住・定住の促進、子育て環境の整備など、多角的なアプローチが求められます。例えば、地域資源を活用した新たな産業の創出や、テレワークの推進による地方移住の促進、空き家の活用による移住者の受け入れ体制の整備などが、具体的な施策として実施されています。
また、デジタル技術の活用も地方創生の重要な要素となっています。5Gやローカル5Gの整備、スマートシティの推進、オンライン教育や遠隔医療の充実など、テクノロジーを活用することで、地方においても都市部と遜色ない生活環境を整備することが可能になりつつあります。
さらに、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、地方創生の重要性が注目されています。地域の環境保全や再生可能エネルギーの活用、循環型社会の構築など、地方創生の取り組みはSDGsの達成にも寄与します。
地方創生は、短期的な対症療法ではなく、中長期的な視点に立った持続可能な地域づくりを目指すものです。人口減少や高齢化といった構造的な課題に対応しつつ、地域の個性と魅力を最大限に引き出し、新たな価値を創造していくことが求められています。
この取り組みの成否は、日本の将来像を左右する重要な鍵となるでしょう。地方の活性化なくして、日本全体の持続的な発展は望めないのです。
地方創生の主な施策。国と地方自治体の取り組み

地方創生を実現するためには、国と地方自治体が密接に連携し、効果的な施策を展開することが不可欠です。ここでは、国と地方自治体が取り組んでいる主な施策について詳しく見ていきましょう。
まず、国レベルの施策として最も重要なのが、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」です。この戦略は2014年に策定され、以後5年ごとに見直しが行われています。2023年度からは「第3期まち・ひと・しごと創生総合戦略」がスタートし、4つの基本目標が掲げられています:
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稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする 
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地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる 
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結婚・出産・子育ての希望をかなえる 
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ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる 
これらの目標達成に向けて、国は様々な支援策を講じています。例えば、「地方創生推進交付金」は、地方自治体の自主的・主体的な取り組みを財政的に支援する制度です。2024年度予算では1,000億円が計上されており、地域の特性を活かした事業の展開を後押ししています。
また、「地方拠点強化税制」は、企業の地方移転や地方での雇用創出を促進するための税制優遇措置です。オフィス減税や雇用促進税制などを通じて、企業の地方進出を支援しています。
さらに、「地域おこし協力隊」制度は、都市部の人材を地方に呼び込み、地域活性化を図る取り組みです。2023年度には約7,000人が全国各地で活動しており、移住促進や地域課題の解決に貢献しています。
一方、地方自治体はこれらの国の施策を活用しつつ、地域の実情に応じた独自の取り組みを展開しています。例えば、長野県飯田市では、「地域人教育」という特色ある教育プログラムを実施しています。高校生が地域の課題解決に取り組むことで、地域への愛着を深め、将来的なUターンにつなげる狙いがあります。
石川県輪島市では、伝統工芸である輪島塗の技術を活かし、現代的なデザインを取り入れた新商品開発を行っています。伝統と革新を融合させることで、新たな市場開拓と若手職人の育成を同時に実現しています。
北海道ニセコ町では、環境に配慮した持続可能な観光地づくりを推進しています。再生可能エネルギーの活用や自然環境の保全に力を入れることで、国内外からの観光客誘致と地域の持続可能性の両立を図っています。
福島県会津若松市は、ICTを活用したスマートシティ構想を推進しています。データ利活用基盤「DATA for CITIZEN」を構築し、市民サービスの向上と地域産業の活性化を同時に実現しようとしています。
これらの事例に共通するのは、地域の特性や資源を最大限に活用し、独自の価値を創造しようとする姿勢です。成功している自治体は、単に国の施策を適用するだけでなく、地域の実情に合わせてカスタマイズし、さらに独自の創意工夫を加えています。
また、近年では自治体間の連携も活発化しています。例えば、「連携中枢都市圏構想」は、中核市を中心とした周辺市町村との広域連携を促進する取り組みです。行政サービスの効率化や経済圏の拡大を図ることで、地方創生の実効性を高めることを目指しています。
さらに、民間企業やNPO、大学などとの連携も重要な要素となっています。産官学連携による新産業創出や、地域課題解決型のソーシャルビジネス支援など、多様な主体の知恵と力を結集することで、より効果的な地方創生を実現しようとしています。
国と地方自治体の取り組みは、PDCAサイクルを通じて継続的に改善が図られています。効果測定と検証を行い、成功事例を他地域に横展開するとともに、課題がある施策は見直しや改善を行っています。
地方創生の成功には、これらの施策を地域の実情に合わせて効果的に組み合わせ、継続的に実施していくことが求められます。同時に、地域住民の主体的な参画を促し、地域全体で地方創生に取り組む機運を醸成することも重要です。国と地方自治体の連携、そして地域社会全体の協働があってこそ、真の地方創生が実現するのです。
先進的な取り組みから学ぶ

地方創生の取り組みは全国各地で展開されていますが、中でも特筆すべき成功を収めている事例があります。これらの先進的な取り組みから学ぶことで、他の地域でも応用可能な知見を得ることができます。ここでは、いくつかの成功事例を詳しく見ていきましょう。
徳島県神山町:IT企業誘致によるクリエイティブな町づくり
神山町は、過疎化が進む中山間地域でありながら、IT企業のサテライトオフィス誘致に成功し、クリエイティブな人材が集まる町として注目を集めています。NPO法人グリーンバレーが中心となり、空き家をリノベーションしてオフィスや住居として活用する「神山プロジェクト」を展開。その結果、2023年までに20社以上のIT企業が進出し、約100人の移住者を受け入れています。
成功の鍵は、単なる企業誘致ではなく、「創造的過疎」という独自のコンセプトを掲げ、質の高い移住者を選別して受け入れたことです。また、高速通信環境の整備や古民家の魅力的なリノベーションなど、ワーク・ライフバランスを重視する若手クリエイターのニーズに合わせた環境づくりを行いました。
島根県邑南町:食と農を軸にした地域ブランディング
人口約1万人の邑南町は、「A級グルメのまち」というユニークな地域ブランディングで知られています。地元の食材を活かした高級レストランの誘致や、若手シェフの育成プログラムなどを通じて、食による町おこしを実現しています。
特筆すべきは、「耕すシェフ」制度です。これは、シェフが農業も学びながら自ら食材を生産するという、独自の人材育成システムです。この取り組みにより、2023年までに30名以上の若手シェフが移住し、新たな飲食店の開業や農業の担い手として活躍しています。結果として、観光客の増加や雇用創出、さらには出生率の向上にもつながっています。
長野県立科町:再生可能エネルギーを活用した持続可能な村づくり
立科町は、人口約7,000人の小さな町ですが、再生可能エネルギーを活用した持続可能な村づくりで注目を集めています。特に、「立科町営メガソーラー発電所」の運営が特徴的です。この発電所は、町が主体となって運営し、売電収入を町の財政に還元しています。
さらに、「おひさま0円システム」という独自の取り組みを展開。これは、家庭の屋根に無料で太陽光パネルを設置し、発電した電力を町が買い取るというシステムです。この取り組みにより、2023年までに町内の再生可能エネルギー自給率は50%を超え、環境に優しい町としてのブランド価値を高めています。
岡山県西粟倉村:林業を軸にした循環型経済の構築
西粟倉村は、人口約1,400人の小さな村ですが、「百年の森林構想」という長期的ビジョンのもと、林業を軸にした地域活性化に成功しています。村有林と私有林を一体的に管理する「森の学校」事業を展開し、持続可能な林業経営を実現しています。
特筆すべきは、木材の高付加価値化と多角的な活用です。単に原木を売るだけでなく、村内に木工製品の製造拠点を設け、デザイン性の高い家具や雑貨を製造・販売しています。また、木質バイオマス発電所の設置や、森林体験ツアーの実施など、多面的な森林活用を行っています。
これらの取り組みにより、2023年までに20社以上の新規事業者が村に進出し、約100人の若者が移住しています。人口減少に歯止めがかかり、むしろ微増傾向にあるのは特筆すべき成果です。
福岡県北九州市:産業遺産を活用した都市再生
かつての公害都市から環境先進都市への転換を果たした北九州市は、産業遺産を活用した都市再生の好例です。特に、官営八幡製鐵所の旧本事務所(現・安川電機みらい館)や旧鍛冶工場をはじめとする近代化産業遺産を観光資源として活用し、「インダストリアルツーリズム」を推進しています。
2023年には、これらの産業遺産群が日本遺産に認定され、観光客数が前年比20%増を記録しました。また、環境技術や循環型社会システムの海外展開も積極的に行っており、アジアの環境首都としての地位を確立しつつあります。
これらの成功事例から学べる共通点として、以下が挙げられます:
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地域の独自性を活かした明確なビジョンの設定 
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長期的な視点に立った戦略的な取り組み 
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多様なステークホルダーとの連携 
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若者や創造的人材を惹きつける環境づくり 
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地域資源の高付加価値化と多角的活用 
これらの事例は、人口減少や高齢化といった課題を抱えながらも、地域の特性を最大限に活かし、創意工夫によって活路を見出した好例といえます。他の地域がこれらの成功事例から学び、自らの地域に適した形で応用していくことで、さらなる地方創生の広がりが期待できるでしょう。
観光、特産品、文化を生かした地域活性化

地方創生において、地域固有の資源を効果的に活用することは極めて重要です。観光資源、特産品、伝統文化などの地域資源を戦略的に活用することで、地域の魅力を高め、経済活性化につなげることができます。ここでは、地域資源を活用した地域活性化の具体的な方策と成功事例を見ていきましょう。
観光資源の活用
日本の各地域には、独自の自然景観、歴史的建造物、温泉など、多様な観光資源が存在します。これらを効果的に活用することで、交流人口の増加や地域経済の活性化を図ることができます。
例えば、長野県飯山市では、豊かな自然を活かした「信越トレイル」を整備し、国内外からのトレッキング愛好家を集めています。約80kmに及ぶこのトレイルは、2023年には年間利用者が5万人を超え、地域経済に大きな波及効果をもたらしています。
また、島根県大田市の石見銀山では、世界遺産登録を機に、歴史的景観の保全と観光振興を両立させる取り組みを行っています。ガイド付きツアーの充実や、古民家を活用した宿泊施設の整備により、2023年の観光客数は登録前の約3倍となる年間80万人に達しています。
特産品の開発と販売促進
地域の農林水産物や伝統工芸品などの特産品は、地域ブランドを確立し、経済的価値を生み出す重要な資源です。これらを現代のニーズに合わせて再開発したり、新たな販路を開拓したりすることで、地域経済の活性化につながります。
和歌山県では、「おいしい!健康わかやま」プロジェクトを展開し、県産の柑橘類や梅などを使った新商品開発を支援しています。特に、機能性表示食品制度を活用した健康食品の開発に力を入れており、2023年には県内企業による機能性表示食品の届出数が全国トップクラスとなりました。
また、岐阜県高山市では、伝統的な飛騨の家具づくりの技術を活かしつつ、現代的なデザインを取り入れた新製品開発を行っています。「飛騨の家具」ブランドとして海外展開も積極的に行い、2023年の輸出額は10年前の5倉近くに拡大しています。
文化資源の活用
地域の伝統文化や芸術は、その地域独自の魅力を形成する重要な要素です。これらを現代的に解釈し、新たな価値を創造することで、文化的な地域振興が可能となります。
例えば、徳島県では、「阿波おどり」を単なる夏祭りではなく、年間を通じた観光資源として活用しています。「阿波おどり会館」での常設公演や、企業研修への阿波踊り体験の導入など、多角的な展開を図っています。その結果、2023年の阿波おどり関連の経済波及効果は推計で年間300億円を超えました。
京都府与謝野町では、丹後ちりめんの伝統を活かしつつ、現代アートとのコラボレーションを実施しています。「丹後ちりめんアートプロジェクト」として、国内外のアーティストを招聘し、ちりめんを使ったアート作品の制作や展示を行っています。この取り組みにより、伝統工芸の新たな可能性を開拓するとともに、アートツーリズムによる交流人口の増加を実現しています。
地域資源の複合的活用
最も効果的な地域活性化は、これらの資源を複合的に活用することで実現されます。観光、特産品、文化を有機的に結びつけることで、より大きな相乗効果を生み出すことができます。
石川県金沢市は、伝統工芸、食文化、歴史的街並みなど、多様な地域資源を総合的に活用した都市ブランディングに成功しています。特に、2023年度からスタートした「金沢クラフトビール」プロジェクトは注目を集めています。地元の酒造メーカーと伝統工芸作家がコラボレーションし、金沢の食文化と工芸品を融合させた高付加価値の商品開発を行っています。
また、北海道ニセコ町では、世界的に有名なパウダースノーを活かしたウィンターリゾートとしての地位を確立しつつ、夏季には農業体験や自然体験プログラムを提供しています。さらに、地元食材を使った高級レストランの誘致や、環境に配慮した持続可能な観光地づくりにも力を入れています。この結果、2023年の外国人宿泊者数は、コロナ禍前の2019年を上回る水準まで回復しました。
これらの事例から、地域資源を活用した地域活性化の成功のポイントとして、以下が挙げられます。
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地域資源の独自性と価値の再発見 
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現代のニーズに合わせた再解釈と商品開発 
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地域内外の多様な主体との連携 
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デジタル技術の活用による情報発信と販路拡大 
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持続可能性を考慮した長期的視点 
地域資源の活用は、地方創生の核となる重要な戦略です。各地域が自らの強みを再認識し、創意工夫を凝らしてそれらを活用することで、持続可能な地域の発展が実現できるのです。今後も、時代の変化に応じた柔軟な発想と、地域の特性を活かした独自の取り組みが求められていくでしょう。
「移住・定住促進」UIターンを促す取り組みと支援制度

人口減少に直面する地方にとって、移住・定住の促進は地方創生の重要な柱の一つです。特に、都市部から地方への人の流れを作り出すUIターン(Uターン:出身地に戻る、Iターン:出身地以外の地方に移住する)の促進は、地域の活力を維持・向上させる上で欠かせません。ここでは、UIターンを促す具体的な取り組みと支援制度、そして成功事例を見ていきましょう。
情報発信と相談体制の整備
移住を考える人々にとって、地域の情報を得ることは重要な第一歩です。多くの自治体が移住ポータルサイトを開設し、仕事、住まい、子育て環境などの情報を提供しています。
例えば、島根県は「くらしまねっと」という総合的な移住情報サイトを運営し、各市町村の特徴や支援制度、実際の移住者の声などを分かりやすく紹介しています。また、東京と大阪に「ふるさと島根定住財団」の窓口を設け、専門のコンシェルジュによる相談対応を行っています。この結果、2023年度の島根県への移住者数は前年比20%増の約2,000人を記録しました。
就業支援と起業支援
仕事の確保は移住の大きな障壁の一つです。そのため、多くの自治体が就業支援や起業支援に力を入れています。
長野県では、「信州ベンチャーチャレンジ応援プロジェクト」を展開し、都市部の人材や企業のサテライトオフィス誘致を積極的に行っています。特に注目されているのが、「ワーケーション」の推進です。県内の自然豊かな地域に滞在しながら働くことができる環境を整備し、段階的な移住につなげる取り組みを行っています。2023年には、このプロジェクトを通じて100社以上の企業が長野県でのワーケーションを実施し、そのうち10社が実際に県内にサテライトオフィスを開設しました。
住宅支援
住居の確保も移住の重要な要素です。空き家バンクの整備や、リノベーション支援などが一般的ですが、より踏み込んだ支援を行う自治体も増えています。
例えば、徳島県神山町では、NPO法人グリーンバレーが中心となって「神山町移住支援住宅」を運営しています。これは、移住希望者が一定期間(最長2年)住むことができる賃貸住宅で、その間に地域になじみながら永住先を探すことができます。また、古民家のリノベーションにも力を入れ、伝統的な日本家屋で暮らすという付加価値を提供しています。この取り組みにより、2023年までの10年間で約200世帯、500人以上が神山町に移住しました。
子育て・教育支援
若い世代の移住を促進するためには、充実した子育て・教育環境の整備が欠かせません。
岡山県奈義町は、「子育て応援宣言」を行い、様々な支援策を展開しています。特筆すべきは、第2子以降の保育料完全無料化や、高校生までの医療費無料化、さらには不妊治療費の助成など、手厚い支援を行っていることです。また、町営の認定こども園「なぎチャイルドホーム」は、自然を活かした特色ある教育で注目を集めています。これらの取り組みにより、奈義町の合計特殊出生率は2023年に2.95を記録し、全国トップクラスの水準を維持しています。
地域おこし協力隊の活用
総務省が推進する「地域おこし協力隊」制度も、UIターン促進の重要な施策となっています。都市部の人材が一定期間地域に居住して地域おこし活動を行い、その後の定住・定着を図る仕組みです。
北海道東川町では、写真文化を活かしたまちづくりの一環として、「写真甲子園」や「写真の町」事業に地域おこし協力隊を積極的に活用しています。協力隊員は、イベントの企画・運営や情報発信などに携わりながら、町の魅力を体感し、多くの隊員がそのまま定住しています。2023年までの5年間で、20名以上の元協力隊員が東川町に定住し、写真関連産業や観光業などで活躍しています。
関係人口の創出・拡大
最近注目されているのが、移住には至らないものの、特定の地域と継続的なつながりを持つ「関係人口」の創出・拡大です。
鳥取県は「ふるさと来LOVE(クラブ)とっとり」という会員制度を設け、鳥取県にゆかりのある人や興味を持つ人々とのネットワークを構築しています。オンラインイベントやワークショップ、特産品の優先販売などを通じて、鳥取県との関係性を深める機会を提供しています。2023年には会員数が1万人を突破し、そのうち約100人が実際に鳥取県への移住を実現しました。
これらの取り組みから、UIターン促進の成功のポイントとして以下が挙げられます:
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きめ細かな情報提供と相談体制の整備 
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仕事の確保(就業支援・起業支援) 
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住居の確保と住環境の整備 
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子育て・教育環境の充実 
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段階的な移住プロセスの支援(お試し移住、地域おこし協力隊など) 
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関係人口の創出・拡大による緩やかな連携 
UIターンの促進は、単に人口を増やすだけでなく、新たな視点や技術、ネットワークをもたらし、地域に新たな価値を創造する可能性を秘めています。各地域が自らの特性を活かしながら、移住者にとって魅力的な環境を整備し、継続的に支援していくことが、持続可能な地方創生につながるのです。
新たな雇用創出と経済活性化
地方創生において、地域産業の振興は極めて重要な要素です。既存産業の強化や新産業の創出を通じて、雇用を生み出し、経済を活性化させることが、持続可能な地域づくりの基盤となります。ここでは、地域産業振興の具体的な戦略と成功事例を見ていきましょう。
地域資源を活用した産業振興
多くの地域では、地元の特産品や自然環境などの地域資源を活用した産業振興に取り組んでいます。
例えば、高知県四万十町では、「四万十のしずく」というミネラルウォーターブランドを立ち上げ、地域経済の活性化に成功しています。四万十川の伏流水を使用し、地元の間伐材を活用したペットボトルを採用するなど、地域資源を最大限に活用しています。2023年の売上高は50億円を突破し、100名以上の新規雇用を創出しました。
また、長野県小布施町では、栗を中心とした農産物を活用した6次産業化に成功しています。「小布施堂」を中心に、栗菓子の製造販売だけでなく、観光農園や飲食店の展開、さらにはワイナリーの設立など、多角的な事業展開を行っています。この結果、2023年の観光客数は年間120万人を超え、地域経済に大きな波及効果をもたらしています。
先端技術を活用した新産業の創出
IoTやAI、ロボット技術などの先端技術を活用し、新たな産業を創出する取り組みも各地で行われています。
福島県会津若松市では、ICT関連産業の集積を目指す「会津Revitalization」プロジェクトを展開しています。スマートシティの実現に向けた実証実験の場として市全体を位置づけ、企業誘致や人材育成を積極的に行っています。特に、会津大学を核とした産学官連携により、AIやビッグデータ分析の専門家を育成し、地元企業とのマッチングを図っています。2023年までに100社以上のICT関連企業が進出し、1,000人以上の新規雇用が生まれました。
地域間連携による産業振興
単一の自治体だけでなく、複数の自治体が連携して広域的に産業振興を図る取り組みも増えています。
九州北部の福岡県、佐賀県、長崎県にまたがる「九州北部自動車産業アジア先進拠点推進構想」は、自動車関連産業の集積地としての発展を目指す広域連携の好例です。三県が協力して企業誘致や人材育成を行い、サプライチェーンの強化を図っています。2023年には、EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)関連の部品メーカーの進出が相次ぎ、地域全体で5,000人以上の新規雇用が創出されました。
社会課題解決型の新産業創出
地域が抱える社会課題を、ビジネスの手法で解決しようとする社会起業家の支援も、新たな産業振興の形として注目されています。
岡山県西粟倉村では、「ローカルベンチャー」の育成に力を入れています。村が出資する第三セクター「西粟倉村森の学校」を中心に、林業の6次産業化や観光振興、エネルギーの地産地消などに取り組む起業家を支援しています。2023年までに30社以上のローカルベンチャーが生まれ、100人以上のUIターン者が移住しました。
地域商社の設立による販路開拓
地域の特産品や農産物の販路開拓を担う「地域商社」の設立も、産業振興の有効な手段として注目されています。
島根県邑南町では、「株式会社おおなんぐらし」という地域商社を設立し、地元特産品の販路拡大と観光プロモーションを一体的に展開しています。特に、「A級グルメ」というコンセプトのもと、地元食材を使った高付加価値な商品開発と、それを提供する飲食店の誘致・育成に成功しています。2023年の売上高は10億円を突破し、30名以上の新規雇用を生み出しました。
人材育成と起業支援
地域産業の振興には、それを担う人材の育成が不可欠です。多くの地域で、起業家育成や専門人材の確保に向けた取り組みが行われています。
石川県七尾市では、「能登留学」という独自のプログラムを展開しています。都市部の若者が一定期間能登に滞在し、地域の課題解決に取り組みながら起業のノウハウを学ぶものです。2023年までに100名以上が参加し、そのうち30名以上が実際に七尾市で起業しました。IT企業や農業ベンチャー、観光関連企業など、多様な分野での起業が実現しています。
これらの事例から、地域産業振興の成功のポイントとして以下が挙げられます:
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地域資源の再評価と戦略的活用 
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先端技術の積極的な導入 
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広域連携による相乗効果の創出 
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社会課題解決型のビジネスモデル構築 
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販路開拓と市場創造の戦略的推進 
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起業家精神を持つ人材の育成と支援 
地域産業の振興は、単なる経済的な効果だけでなく、地域の誇りや自信の回復、さらには若者の定着にもつながる重要な取り組みです。各地域が自らの強みを活かし、時代のニーズに合った産業振興策を展開することで、持続可能な地方創生が実現できるのです。今後も、地域の特性と外部環境の変化を見据えた柔軟かつ戦略的な産業振興が求められていくでしょう。
地方創生の課題と今後の展望。持続可能な地域発展に向けて

地方創生の取り組みが本格化して約10年が経過し、一定の成果が見られる一方で、依然として多くの課題が存在します。ここでは、地方創生の現状における主な課題を整理し、今後の展望について考察します。
人口減少と高齢化の継続
最大の課題は、依然として続く人口減少と高齢化です。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2023年時点で約1億2500万人の日本の人口は、2040年には約1億1000万人にまで減少すると予測されています。特に地方部での人口減少が顕著であり、多くの自治体で人口維持が困難な状況が続いています。
課題解決に向けては、単なる人口増加策だけでなく、人口減少を前提とした持続可能な地域づくりが求められます。例えば、富山市のコンパクトシティ政策は、人口減少社会における都市設計の好例として注目されています。公共交通を軸とした居住区の集約により、効率的な行政サービスの提供と生活の質の維持を両立させています。
東京一極集中の是正
東京圏への人口集中は依然として続いており、2023年の転入超過数は約10万人に達しています。若年層を中心とした人材流出は、地方の活力低下に直結する深刻な問題です。
この課題に対しては、地方の「稼ぐ力」を高めることが重要です。例えば、徳島県神山町のサテライトオフィス誘致は、都市部の仕事を地方に持ち込む新たなモデルとして注目されています。2023年までに20社以上のIT企業が進出し、約100人の移住者を受け入れる成果を上げています。
財政的制約と行政効率化の必要性
多くの地方自治体が財政難に直面しており、地方創生の取り組みを継続的に推進するための資金確保が課題となっています。
この問題に対しては、行政のデジタル化による効率化や、官民連携(PPP/PFI)の推進が重要です。例えば、千葉市では「市民協働レポート」というスマートフォンアプリを導入し、市民からの情報提供を活用して道路補修などの行政サービスの効率化を図っています。2023年には年間1億円以上のコスト削減効果が報告されました。
産業構造の変化への対応
AI、IoTなどの技術革新により、産業構造が急速に変化しています。地方経済を支える製造業や農業などの基幹産業も、この変化に対応する必要があります。
課題解決には、デジタル技術の積極的な導入と、それを担う人材の育成が不可欠です。例えば、新潟県見附市では、IoTを活用したスマート農業の推進に力を入れています。ドローンやAIを活用した農作業の効率化により、2023年には市内の農業生産性が5年前比で20%向上しました。
環境問題と持続可能性の確保
気候変動や生物多様性の喪失などの環境問題に対応しつつ、持続可能な地域発展を実現することが求められています。
この課題に対しては、SDGs(持続可能な開発目標)の理念を地方創生に取り入れることが重要です。長野県飯田市は、「SDGs未来都市」として再生可能エネルギーの地産地消や森林資源の循環利用に取り組んでいます。2023年には市内の再生可能エネルギー自給率が50%を超え、環境と経済の好循環を生み出しています。
関係人口の創出と拡大
人口減少が避けられない中、交流人口や関係人口の創出・拡大が新たな課題となっています。
この課題に対しては、地域と多様に関わる機会の創出が重要です。例えば、島根県邑南町では「地域若者サポートステーション」を設置し、都市部の若者が一定期間地域に滞在して地域課題の解決に取り組むプログラムを実施しています。2023年には100名以上が参加し、そのうち10名が実際に移住を決めました。
今後の展望。持続可能な地域発展に向けて

これらの課題を踏まえ、今後の地方創生は以下のような方向性で進展していくと考えられます。
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テクノロジーの積極的活用: 5GやAI、ロボティクスなどの先端技術を活用し、地方でも高度な産業や快適な生活環境を実現することが期待されます。例えば、遠隔医療や自動運転技術の導入により、過疎地域でも高度な医療サービスや移動手段を確保できる可能性があります。 
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多様な働き方の実現: テレワークやワーケーションの普及により、地方に住みながら都市部の仕事に従事するなど、多様な働き方が可能になります。これにより、UIターンの促進や関係人口の拡大が期待されます。 
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グリーン成長戦略の推進: 脱炭素社会の実現に向けた取り組みを地方創生の柱の一つとして位置づけ、再生可能エネルギーの導入や循環型経済の構築を進めることで、環境と経済の好循環を生み出すことが期待されます。 
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広域連携の強化: 人口減少が進む中、単一の自治体では対応が困難な課題に対し、複数の自治体が連携して取り組むことが重要になります。「連携中枢都市圏」構想などを活用し、効率的かつ効果的な地域運営を目指す動きが加速するでしょう。 
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関係人口の戦略的活用: 移住に至らなくとも、地域と多様に関わる「関係人口」を戦略的に創出・拡大し、地域の担い手として活用する取り組みが広がると予想されます。 
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地域のブランディングと発信力の強化: 地域の固有の価値を再発見し、効果的に発信することで、交流人口や関係人口の拡大、さらには移住・定住の促進につなげる取り組みが重要性を増すでしょう。 
地方創生は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、これまでの取り組みで得られた知見や、新たなテクノロジーの活用、そして地域住民の主体的な参画により、持続可能な地域発展の道筋が見えつつあります。今後は、各地域がそれぞれの特性を活かしながら、長期的な視点で粘り強く取り組んでいくことが、真の地方創生につながるのです。
