本を手に取る音とコーヒーの香りがまじる店内で、
それぞれが思い思いの時間を過ごす――
それが「絵本の店 omamori」です。

店主は、埼玉・東京を経て三条市へ移住した、まるのさん。
ここで本屋とカフェを営むようになった背景には、一つの転機がありました。
自分の手で届けたいものがあった

まるのさんが移住を考え始めたのは、コロナ禍で生活が不安定だった時期でした。
移住前の東京では在宅勤務が続き、気持ちが落ち込む日もあったといいます。
そんな中でも、短い時間で読める絵本だけは手に取ることができたそうです。
「小説は読めなかったけれど、絵本は開けたんです。
その体験から、自分の手で誰かの手に手渡せるような仕事がしたいと思いました」
誰かに小さな価値を届けたい。
そんな思いから、自分でつくって届ける仕事に関心が向くようになりました。
その中で本屋について調べていた際、
三条市が商店街で本屋の出店者を募集している記事を偶然目にしました。
それが、移住を後押しする大きなきっかけになりました。
知り合いゼロの移住。それでもお店を続けられた理由

三条市にゆかりはなく、知り合いもいないまま単身で移住したまるのさん。
しかし、地域の人たちは驚くほど自然に関わり、力を貸してくれたといいます。
店内に置かれた本棚や什器の多くは、地域の人から譲り受けたものです。
「なぜこんなに優しいんだろう、と最初は戸惑いました。
困っていたら当たり前のように手を貸してくれるんです」
未経験の挑戦にも否定的にならない。
その土地の空気が、まるのさんの新しい挑戦を支えました。
絵本に限らず、届け方を工夫する

omamoriの特徴は、絵本屋とカフェの両方を軸にしつつ、
展示企画やイベントなど多様な届け方を取り入れている点です。
「絵本だけじゃなく、読み物の制作やイベントなど、
いろんな伝え方があっていいと思っています」
最近は台湾でのポップアップ出店も3度経験し、
お店の外での活動も広がり続けています。
また、制作活動を応援するサークルなども立ち上げ、
本屋を続けながら新しい表現にも挑戦しています。
相手の状況に合わせて本を選ぶ “選書” という取り組み

omamoriでは、まるのさんが読者の状況や気持ちをヒアリングし、
合う本を選んで届ける「選書」の取り組みも行われています。
「普段は人に話さない気持ちを書いてくださる方も多くて、驚きました」
本を選ぶ行為以上に、その人の“今”に触れる瞬間が生まれることもある。
店には、
「疲れたときに寄れる場所です」
といった声も届き、小さな店がそれぞれのペースで利用されている様子が伝わります。
行動の軸は「自分の人生に正直であること」

まるのさんが大切にしているのは、
“誰かのため”ではなく、自分が信じられる価値をつくること。
「やって届かなければやめて、新しく始める。
喜んでもらえたら続ける。実験の繰り返しです」
無理に大きな目的を掲げるのではなく、
小さな違和感や実感を丁寧に拾いながら形にする。
その姿勢が、結果として人の心に届いています。
三条の商店街で育つ挑戦

経験ゼロから始めた店づくり。
地域に支えられながら広がっていく活動と、少しずつ積み重なる挑戦。
商店街という日常の中で、
omamoriは今日も、誰かがふらりと寄れる場所として続いています。
📹 まるのさんの動画はこちらからご覧いただけます