静岡県磐田市内今之浦公園のそばにあるシックな色の建物。1階のアメリカンダイナーから漂う食欲を誘う香りを横目に、静岡県全域をホストエリアに構えるラグビークラブ・静岡ブルーレヴズのオフィスを訪ねた。春を越え、初夏すら感じさせるような暖かさ。 半袖姿で迎えてくれた田邊憶音さん。静岡ブルーレヴズ株式会社広報・コミュニケーション室地域連携ユニットとベニュー・イベント事業部にてボランティア担当を兼務している。 田邊さんがラグビーと出会ったのは中学生のとき。 「最初は野球部に入ろうと思っていました」野球部に仮入部した際、鼻にボールが当たるというアクシデントに見舞われた。それに加え、まわりは経験者が多く、実力の差を感じたという。 そんななか、担任の先生がラグビー部の顧問だったという理由でたまたま行ったラグビー部。「ボールを持って走っただけで、きみセンスあるねー!って褒められて。勘違いして入部しました」そんなきっかけで出会ったラグビー。 中学、高校時代は部員数も少なく、合同チームとして試合に出場していた。大学進学時に、よりレベルの高い環境でラグビーがしたいと思い、立命館大学へ進学。 しかし、大学1年生のとき肩を負傷し、ラグビーができない1年間を過ごした。また、強豪校特有の環境に挫折を感じたという。 「はじめてラグビーを嫌いになりかけて、正直やめようかなって時期もあったんです。でも、仲間と切磋琢磨してなんとか乗りきりました」 そんな挫折を乗り越えた田邊さんに、転機が訪れたのは大学2年生の春休み。 「ニュージーランドへ留学する機会をいただけたので、春休みの短い期間だったのですが、挑戦させてもらいました」 「ニュージーランドに行って感じたのは、ラグビーは『競技そのものを楽しむ』ということ。楽しんでプレーしたほうがプレーや技術の向上にもつながる。そして、ニュージーランドはラグビーが国技のようになっているので、ラグビーでつながる家族や友情の輪が広がっていました。その環境に心奪われた留学期間でした」 その留学経験を経て、結果的にはAチームで試合への出場も果たした。 「楽しんでプレーするという考えは間違っていなかったなと思いました。気づきや学びの多かった留学だったと思います」 その経験から、将来のビジョンは「ニュージーランドに住むこと」になった田邊さん。 少しでもそのビジョンに近づきたいとの思いから、大学卒業後は海外駐在や英語を使用した仕事にも関わることができる貿易関係の仕事に就いた。 やりがいは感じていたが、仕事に慣れてきたころ、気づいたのは自分自身が誇れるサービスを提供したいという思いだった。 田邊さんが大学を卒業したころ、『ラグビーリーグワン』がスタート。自分自身にとっての特別な体験価値を感じるラグビーに関わる仕事をしたいと思った。数あるチームなかでも、静岡ブルーレヴズのクラブのあり方に魅力を感じ、このクラブで働きたいと思ったそう。 「プロラグビークラブの仕事でどんなものがあるのか、深くは知らなかったので、最初は営業の仕事で話を聞きました。そのなかで地域連携という仕事があることを知って、仕事内容を知っていくうちにこの仕事がしたいと思いました」 「地域連携って一言で言うとわかりづらいと思うのですが、僕がイメージしたのは静岡県をニュージーランドみたいにラグビーがあふれる場所にできる仕事だって思ったんです」 静岡県をニュージーランドに。実現したらどんな風になるのだろう。 「地域の皆さんや自治体と連携をとりながら、ラグビーを知ってもらう、観に来てもらう、やってもらう。ラグビーへの関わりを増やしていく仕事で、僕がやりたいことってこれだなって思いました。これは天職だなって」「前までは住みたいって思っていたんですけど、そんなに英語が喋れるわけでもないので、日本語が通じるニュージーランドがあったら僕にとって最高だなと(笑)」 そうして今の仕事と出会い静岡県磐田市へ、まもなく3年目を迎える。 元々は関東出身。静岡県との関わりはこれまでなかった。はじめて暮らす場所に不安はなかったのだろうか。 「アウトドアが好きなので、海が近く、山もあり、サウナも充実しています。美味しいご飯もたくさんあるし、ラグビーができる環境もある。磐田に来てからよく、『何もない』って言われますけど、個人的には東京などの都市部よりも僕の好きなものがいっぱいある土地だなって感じます。こんな場所があったのかって」自然環境に関しても静岡県はニュージーランドに近いものを感じたという。「特に磐田は元々スポーツのまちっていうこともあって、身近にスポーツがある環境がすでにあるので。ここでなら実現できるって最初から思いました」 最後に田邊さんに充実感を感じる瞬間を教えてもらった。「仕事の時間って人生のなかでも費やす時間が多いと思っていて、今の仕事は情熱を持って取り組めるので、発揮できるパフォーマンス力も最大化できると思っています。情熱を注げるものに出会えたのはラッキーで、その思いを絶やさず『静岡をニュージーランドに』という大きな目標に向かって試行錯誤しながら仕事させてもらってます」 「ヤマハスタジアムで多くの方が集まって、静岡ブルーレヴズを応援している瞬間をみると本当にやっていてよかったなって感じます」情熱を持って仕事に取り組み、ラグビーを通して笑顔や感動が届けられているときが田邊さんにとっての『いいわたし』。 ラグビーへの情熱。少し立ち止まって、自分の気持ちに耳を傾けてみたいと思った。情熱の火種は自分の心のなかにあるのかもしれない。 『静岡をニュージーランドに』。田邊さんにとってのニュージーランドとの出会いのように、未来の情熱は、きっとこれまでの原体験が育んでくれる。だから、どんな選択も、いつか自分の情熱を燃やすエンジンになると信じて。田邊さんの動画はこちらからご覧いただけます。