本セッションでは、地域行政で活躍されている2名のゲストをお招きし、現在の地域の問題、実践的な取り組み、国と地方の関係や今後の可能性を語っていただきました。
※本記事は、2025年3月7日に開催されたOFF TOKYO開業記念レセプション「東京にこだわらない生き方を、すべての人へ」のトークセッションVol.1の内容をレポートにしております。発言内容や情報は、取材当時の情報に基づいています。
ファシリテーター佐藤 陽(以下、佐藤):第1部のトークセッションは「OFF TOKYOな生き方 地域への新たな関わり方と求められている人材とは」ということで、お二人のゲストを招いております。

佐藤 陽 シビレ株式会社 取締役副社長COO/ 総務省地域力創造アドバイザー
兵庫県西宮市出身。2013年に株式会社リクルートに入社。社内新規事業の立ち上げに携わったのち、創業。創業と同時に南三陸町教育魅力化専門監に就任。教育を核とした地方創生に従事。2021年より現職。
東京にこだわらない生き方を推進すべく、地方創生施策の戦略策定や地方自治体と連携した事業のプロジェクトマネジメントに従事。2024年4月から総務省地域力創造アドバイザーに就任。
ローカルゼブラ企業と二地域居住の関係性
伊奈 友子(以下、伊奈): みなさん、こんにちは。経済産業省中小企業庁の商業課長をしております。
一昨年、中小企業庁の創業新事業促進課長に着任し、地域の社会課題解決に取り組む企業を育成しようというテーマで「ローカルゼブラ」という概念を提唱しました。去年の夏から商業課へ異動をしましたが、商業課が担当する豊かなまちづくりと「ローカルゼブラ」という概念はとても親和性が高いと思っており、異動後もゼブラ政策を担当し続けております。

伊奈 友子 経済産業省 中小企業庁 経営支援部 商業課 課長
中小企業庁事業環境部調査室長、商務・サービスグループ物流企画室長/消費経済企画室長、内閣官房内閣広報室企画官、製造産業局ものづくり政策審議室長などを歴任し、中小企業・ものづくり政策などを幅広く担当。
令和5年より、中小企業庁創業・新事業促進課長として、創業支援や、地域社会課題の解決に取り組む「ローカル・ゼブラ企業」の創出・育成推進などを担当。令和6年7月より現職。
佐藤:「ローカルゼブラ」について、簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか。
伊奈:もともとゼブラ企業という概念がございます。これは短期間で急成長を遂げるユニコーン企業のようなスタートアップとは少し異なる概念でして、社会課題を解決するという社会性を持ちながらも収益性を確保するという2軸を両立させている企業を指します。相反する概念を両立させている状態を、白と黒のシマウマ模様に例えて名付けられたものです。加えて、ユニコーンは一匹で駆け抜けていくのに対して、ゼブラは群れで行動しますので、社会課題解決に向かって、みんなで協力をしながら良い社会をつくっていこうと取り組んでいるという要素もゼブラ企業には含まれています。
そして、我々はこのゼブラ企業のなかでも、地域に強くフォーカスをした、地域の課題解決の担い手となる企業をローカルゼブラ企業として、その育成に取り組んでいます。
日下 雄介(以下、日下): こんにちは。国土交通省 国土政策局の地方政策課長の日下と申します。これまで、まちづくりや公共交通を主に担当してきました。現在は、いかに地方に人の流れを生み出していくかを一番の仕事として取り組んでおります。なかでも、直近は二地域居住の推進をメインに取り組んでいます。

日下 雄介 国土交通省 国土政策局地方政策課 課長
東京都出身。2002年に国土交通省に入省。国土交通省では、主に、地域交通、建築行政、都市行政を担務。宮崎県庁への出向、総合政策局交通政策課企画官、都市局総務課企画官、大臣官房総務課企画官、名古屋市住宅都市局長を経て、2024年7月より現職。地方自治体での地域交通行政や住宅・都市行政の経験も踏まえ、二地域居住の促進をはじめ、地域間・官民の共創による地域の活性化に取り組む。
佐藤:「二地域居住」とこれまでの「移住」と呼ばれてきたものにはどういう違いがあるのでしょう?
日下:二地域居住というのは複数の場所に生活の拠点を設けるような暮らし方のことをいいます。移住と違う点でいえば、1人の人が2カ所にも3カ所にも行くことができるわけですので、人の奪い合いにはならないという面があるんじゃないかなと思います。
佐藤:お二人は日常的にもコミュニケーションをとる機会があると伺いましたが、具体的にどういった連携の可能性があるのでしょうか?
伊奈:地域において、基盤的サービスを持続的に維持することが難しくなってきているなかで、どう地域の付加価値を高めて、持続可能なものにしていくか。これは、社会性と経済性の両立が必要という点でまさに同じ方向を向いているんじゃないかと思っています。そして、その重要な役割をローカルゼブラ企業が果たしていくのではないかと思っています。
ローカルゼブラを生み出すには
伊奈: 日本の多くの地域には、100年を超えるような老舗企業があります。そういった企業の社是には、地域との共生、利益を総取りせず周囲と分け合う、地域へ貢献するといったような概念がはいっていたりします。長期的な視点で、この地域を継続させるためにはどうしたら良いかという観点で事業を営まれている方も多いと感じています。そういう意味で、無意識のうちにゼブラ的な企業活動をしている日本の企業は多く、そういった企業を「兄/姉ゼブラ」と呼んでおります。これから生まれてくるであろうローカルゼブラと牽引する兄/姉ゼブラがちゃんと連携ができるとすごく良いと思いますし、連携ができればゼブラ群が生まれやすいような地域がでてくるのではないかと思っています。
佐藤: ローカルゼブラが生まれやすい土壌には何か特徴があるんでしょうか。
伊奈: コミュニティがあるかどうかは大きいと思います。相談しやすいという最初の取っ掛かりもありますし、事業の連携・多様な視点が生まれてくることに繋がります。地域のコミュニケーションが活発であるかどうかは、一つポイントになるかなと思います。
佐藤:多様な視点といったときに、二地域居住は、受け入れる地域側としては担い手が増える価値を感じますが、逆に都市部から関わる側の人や企業にとっての価値はどう受けとめられていますか。
日下: 送り出す側の企業という視点で考えると、会社から社員がいろんな地域に行き、得た経験を持ち帰ってきてくれることによって新しい知見を手に入れられること。そして、実際に行く人にとっては、豊かな暮らしという側面だけでなく、地域での経験を通して獲得する「知のダイバーシティ」によって新しい発想が生まれることを期待できると思っています。二地域居住は、まさに三方よしの取り組みだと思っています。
人の流れを地方へつくるためには / 人材を受け入れる地域の課題
佐藤: 都心に住みながらも、いつか地域で課題を解決したいと思いをもつ若者も多いです。そういった若者や起業家が地域にアクセスしやすくなるために、受け入れる地域側にはどういった課題があるのでしょうか。
伊奈: 今、「ローカルゼブラ」という言葉をつくって取り組んでいる背景でもあるのですが、社会課題の解決といいながら、むしろあるべき未来を自分たちでちゃんとつくろうとしてるところが特徴なんです。そういう意味では、地域側がビジョンをもっていることがすごく大事だと思っています。
「どういう生活が欲しいのか」「どういう地域になりたいのか」を地域側がビジョンとしてもっていると、それをビジネスとして成立させようとするローカルゼブラや、昔からの老舗の企業さんがいて、みんなが連携をしながら取り組んでいける。そして、その連携があっても地域のなかで足りないものって出てくると思います。そこに、外からの関わりしろが見えて、自分はこのスキルなら活かせると思って地域へ入っていけるんです。
地域貢献したいという方はたくさんいらっしゃるのに、口を揃えておっしゃるのが「取っ掛かりがない」というところだと思ってます。ひとつの方法として、「自分たちの地域がどういう地域を目指しているのか」「どういう社会でありたいのか」を対外的に見えるようにすることで、外からの関わりしろを生むことができるんじゃないかと思います。

日下:二地域居住にしても、地域側での居住ルールの作成や地域に馴染んでもらうためのコミュニティ形成など、地域側にとっての課題はいろいろとあります。二地域居住の方は、移動や住居の負担がありますので、ふるさと住民登録制度などを活用して、二地域居住を地域が受け入れやすい環境を整備するということが重要な課題になります。
ローカルゼブラが生き残るために
佐藤: ローカルゼブラの考え方は共感性が高い一方で、社会課題領域の取り組みは短期的な収益性が難しい特徴があると思います。日本のローカルゼブラを取り巻くファイナンスの現状についてお伺いしたいです。
伊奈: これまで、ファイナンスといったときに数値で換算できるもので評価をするというのが基本でした。財務諸表を元として、担保や売上を見ながらファイナンスをつけるという形ですね。一方、近年はインパクトファイナンスという考え方も出てきており、社会や環境に対してどういうインパクトを生み出していくのかという社会的インパクトを評価してお金を動かすという新しいファイナンスの仕組みが出来始めています。社会的インパクトという金銭に換算できないものの価値をどう評価し、経済を動かしていくかがこれから重要になってくると思っています。
佐藤:短期的な収益性だけでなく、地域と連携し課題解決をしたその先の収益性に向けた二地域居住を含む人への投資という考えもあると思うのですが、いかがでしょうか。
日下: 会社の存立基盤でもある地域自体が成り立たなくなってくるんじゃないかと危機感を持っている会社が出てきています。地元で事業をされている企業さんにとって、地域自体が持続していくことは死活問題でもあります。やはり地域自体が元気になっていくこと、そのためにも二地域居住を活用していこう、そんな機運が出つつあるとは感じます。
今後の挑戦
佐藤: さまざまな課題があるお話はいただきましたが、これから国としてどういった挑戦をされていくのかお伺いしたいです。
伊奈: 社会的インパクトという新しい評価軸を浸透させて、実装していかないと、ローカルゼブラが活躍する仕組みをつくりにくいなと思っています。これは今までの経済のあり方と矛盾するものではなく、多様化した経済のなかでの新しいやり方がでてきたんだということを、社会に浸透・実装することに取り組んでいきたいと思っています。浸透というところは全国共通でやった方がいいので国が中心にやっていきます。実例がないと動かないところはあるので、地域の取り組みを、国が全国に普及させていく循環がつくれるとよいと思っています。
日下: 二地域居住の次のステップとして、地域生活圏という議論を始めているんです。事業の共創・主体の共創・地域の共創という3つの共創を掲げています。事業の共創は、複数の民間事業者が連携をして、さまざまなサービスを行うこと。主体の共創というのは、民間だけではなくて、例えば行政も一緒になって、地域にむけてサービスを提供していくこと。それから地域の共創は、複数の自治体がまたがる形で、サービスの提供をしていくこと。この3つの共創をしっかりやっていくことで、地域社会が維持される。二地域居住は、まさにこの共創を生み出す一つの手段だと思っています。地域内の共創だけでなく、外から人がくることで、知と知が結合し、新しい発想や付加価値が生まれる。この二地域居住をうまく活用しながら、地域の生活圏をつくっていくステージへ、我々も議論を出していきたいところです。
OFF TOKYOとは
佐藤: お二人が考える「OFF TOKYOとは」というところもご紹介をお願いできますでしょうか。
伊奈: 「新しい経済のあり方」まさに数字だけで評価されるのではない経済のあり方。すごく儲かるものではないが、地域で必ず必要な仕事や、もしくはすごく時間がかからないと成果が出ない仕事などがあると思います。そういったものを評価できる仕組みを経済の中に取り込んでいくことが重要と思っております。東京といえば、一番資本主義が盛んなところです。そうではない価値軸を東京から離れてどう生み出していけるのか、この新しい経済の在り方を生み出す原点は、地方にあるのではないかと思っています。

日下: 「新結合の場」いろいろな地域の人や企業がOFF TOKYOの場に集まり意見交換することで、新たな知見を得て、イノベーションが生まれる。これが新結合を生んで、新たな価値が生まれていくんだと思います。結合は遠ければ遠いほどいいとも言われていますので、遠くの人・遠い地域からの人と企業が合わさる場になっていくということを期待しています。

本記事は、2025年3月7日に取材された内容をもとに構成されています。
発言内容や状況は、取材当時の情報に基づいています。
