日本の伝統と未来をつなぐ 三条市・三条鍛治道場からつくる新たな生きる道
「古いところの良さを生かしつつ、攻めるべきところは攻める」
「職人さんたちは自分の道具がいいと信じて作っている。それを使った人から『よく切れて便利』と言われることが一番の喜びなんです」
そう語るのは、新潟県三条市「三条鍛治道場」の事務局長を務める池野さん。

三条市の「鍛治道場」は、2005年に設立された鍛冶体験施設です。年間4,500人以上が訪れ、日本の伝統技術を体験。海外からの訪問者も約2割、首都圏からは約6割と、多くの人に親しまれています。
今回、この鍛治道場で活躍する地域おこし協力隊を募集します。未経験でも伝統技術を学び、体験指導者として成長できる環境が整っています。
鍛治道場を運営する「タダフサ」は三条市の包丁製造会社です。30人ほどの企業ながら、先代から「温故知新」をモットーに、伝統を守りつつ革新を続けてきました。
「伝統を守ろうとすると保守的になりがちですが、タダフサの社長はより積極的」と池野さん。もともと市が直営していた施設を、現在はタダフサが運営しています。

「テレビやゲームでは芸術家としての鍛冶屋像が描かれますが、実際は違います。芸術家は一つのものに時間をかけるほど価値が上がりますが、職人は決められた時間で何十個も作る必要があります。でも雑に作っては伝統の意味がない。どこに手間をかけ、どこを効率化するかの判断が重要なんです」
職人の真の喜びは、自分が作った道具が使い手に感謝されること。
実用的な価値を生み出すことが醍醐味なのです。
8時半に出勤し、掃除や準備の後、予約客が来るまでは練習時間。午後も体験指導と練習を行い、4時頃から火を冷ます作業などをして5時15分に終業します。月に数回は夕方から若手向けの勉強会も開催されています。
「3年間は体験講座の運営も担当するため、接客業の側面があります。お客さんに鍛治の魅力を伝えられる方が理想です」
職人志望でも「黙々と作業したい」というよりは、人との交流を大切にできる方が向いています。チームの一員として、様々な人から技術を学ぶ姿勢も重要です。
「自分だけでなく、次世代のためにどんなサポート体制が必要かを一緒に考えられる人だとありがたい」
三条市には鍛冶屋を目指して移住した若者もいますが、中には挫折する方も。そういったミスマッチを減らす仕組みづくりにも協力してほしいと考えています。
求める人物像について、「指示を待つだけでは三年間を無駄にしてしまう」と池野さん。
疑問を持ち、積極的に質問し、訪れる職人から学べる人が充実した時間を過ごせるでしょう。
「3年後には、職人を目指す道、鍛治道場で教え続ける道、販売や企画など別分野で経験を活かす道など、複数の選択肢があります」
日本の包丁は世界でも高い評価を受けています。
最近では包丁販売店が「研ぎ方を学びたい」とプロレベルの研修に関心を示すほど。実際、オーストラリア人の修行生もいる国際色豊かな職場です。

鍛治道場は旧市街地の中心にあり、生活に便利なエリアです。
三条市は「ほどよく田舎」がキーワード。
日本海まで車で30分、山側には豪雪地帯も。そして東京へは新幹線で2時間と近く、休日に美術館やライブを楽しむのも地元の人には日常的な光景です。
「理想は三年間で職人の基礎を身につけ、その後本格的に目指すこと。でも販売や商品開発など、技術を活かせる仕事は三条市内に数多くあります」と池野さんは語ります。
三条市には何百年も受け継がれてきた技と知恵があります。
その伝統を守りながらも、新しい時代に合わせて進化させる挑戦が続いています。
地域おこし協力隊として過ごす3年間は、単なる職業訓練ではなく、日本のものづくりの心に触れる貴重な経験となるでしょう。

刃物が切り開くのは素材だけではありません。
あなた自身の可能性も、ここから広がっていくかもしれません。
世界中で高まる日本の伝統工芸への関心。
その流れの中で、あなたが担う役割は計り知れません。
鍛冶の音が響く工房で、火の粉が舞い上がる中で、昔ながらの職人の手つきを間近で見る。そして自らもその技を体得していく。
そんな日々が、あなたを待っています。
日本の伝統を次世代、そして、世界へつなぐ架け橋として活躍することができる未来が三条からはじまります。
今まで見たことのない夢を描いてみたい、そんな方との出会いを楽しみにしています!
(2025/2/26 取材 鈴木翠)
