
通りの匂いも人の歩幅も、言葉にすれば旅の理由になる——。
大牟田市 産業経済部 観光おもてなし課の松尾さんは「同じ景色でも、書く人が変わると届く相手って変わるんですよね」と語り、同所属の岡田さんは「記事が一つ増えると『今度行ってみます』って声がちょっと増えるんですよ」とほほえむ。
福岡県大牟田市は、公式観光サイト「おおむたOne plate」で、まちの魅力を丁寧に編集する仲間を募集しています。
視点が増えれば、
まちの景色は変わっていく

大牟田市 産業経済部 観光おもてなし課の松尾ひとみさん
「同じ景色でも、書く人が変わると届く相手って変わるんですよね。だから書き手が増えると、読んでくれる人の幅も広がると思うんです」
穏やかな声で話すのは松尾さん。

大牟田市 産業経済部 観光おもてなし課の岡田光虹さん
「記事が一つ増えると『今度行ってみます』って声がちょっと増えるんですよ。少しずつ手応えが出てくる感じはあります」
岡田さんも想いを続けてくれた。
大牟田市公式観光サイト「おおむたOne plate」が増やしたいのは、読み終えたあとに静かに残る体温のような記事。行事の裏側で動く手、店先の会話、季節の匂い。こうした“一次情報”は日々生まれているが、言葉にして届ける人が足りていない。
おおむたOne plateが目指すのは、伝える“速さ”ではなく“残ること”。SNSのタイムラインに流れては消える情報と違い、あとから読み返しても価値を持つ記事を積み重ねていく。
「急いで出したほうがいい時もありますけど、時間をかけたから見えてくることもあります」と松尾さん。「言葉を丁寧に選ぶと読みやすくなるし、スッと入っていく感じになります」と岡田さんは実感を語ってくれた。
新しい視点が加わると、まちの景色は変わっていく。
おおむたOne plateは
受け手の余白を残して背中をそっと押す

大牟田市公式観光サイト「おおむたOne plate」
おおむたOne plateが情報を届けたいのは、“行ってみたい理由”を探す読者たち。
おおむたOne plateはどんな媒体なのかと尋ねるたところ「紙の観光ガイドブックももちろんあるんですが、『これ、持って帰るのが重いよね』って感じる瞬間があると思うんです。 そんな時に『これを見てください』と。『あなたの知りたい大牟田をヒトサラに』というのがおおむたOne plateなんです」と込められた想いを松尾さんが話してくれた。
おおむたOne plateは観光ポータルサイトとして、人・場・催しの一次情報を現場から集め、誇張せず丁寧に編集し、あとから読み返しても価値の残る読み物に仕上げていく。必要以上に言葉で埋め尽くさず、読者が自分の余白で受け取れる余地を残す。
情報を行動へと繋ぐ、これがおおむたOne plateの価値の一つだ。
取材の歩幅を合わせると、
まちとの距離が縮まる

取材は路面電車204号カフェ 「hara harmony coffee」で行った
おおむたOne plateの取材で大切にしたいのは“丁寧さ”と“正確さ”。実際の仕事の流れは「企画→取材→編集→公開→反響」というサイクルだ。反響は、読者からのものだけでなく、取材に協力してくれた方たちの反応や関係性の維持も大切にしてほしい。
取材で「聞く」という行為は、単に質問を多く投げかけることだけではない。相手が言葉を探しているその時間に、根気強く寄り添うこととも言える。こうして得た現場の生きた情報は、「誰に、どのような形で届けるか」という企画をもとに、丁寧に整えていく。
たとえば、企画では仮タイトルと想定読者を言語化し、取材ではメモを重ね、編集では“何を削るか”を決めるだろう。
「『ここは残したいけど、今回は削ろう』って決める場面、ありますよね。そういう判断を重ねると、自分の書き方が決まってくる気がします」と松尾さん。
公開後は読者の反応を見て、次の企画に活かす。
「迷った分だけ、次に確かめたいポイントって増えますよね」と岡田さんは笑う。
取材の歩幅を相手に合わせるほど、まちとの距離は少しずつ確実に縮まっていく。
小さな発見を届ける習慣が
編集の土台になる

特別なニュースでなくていい。通学路の色づき、店主のひと言、地域行事の準備にかかる手間——そうした小さな発見を、“誰に”“どう”伝えるか考えること自体が、企画力や編集力を育てていく。
松尾さんは「『これは誰に向けて?』って、自分に問う癖がつきます」と自身の学びを教えてくれた。
習慣としての編集が根づくほど、日常の見え方も変わっていく。
企画を考えたり言葉を整えたりしていく中で「具体的なことから、みんなに共通するテーマ(本質)を見つけ出す」力が身に付く。編集の仕事とは、たとえば、一枚の写真、誰かのちょっとした会話といった具体的なものから「誰もが共感できる大きなテーマ」へと繋げる「橋渡し役」と言える。
その橋渡しをすることで、読者の「小さな発見」を「明日、ここに行ってみよう」という具体的な行動につなげる道筋を作る。それがこの仕事の醍醐味だろう。
大牟田には見つけられていない「小さな発見」が無数にある。
できることが増えるより、
見える景色が変わる

大牟田市動物園
仕事の仕方は、はじめは先輩の型をなぞり、やがて自分の型に手を入れていく段階へ。取材前の準備、質問の置き方、書き出しの決め方など、フィードバックの往復を重ねるうちに、迷い方も変わる。
松尾さんは「タイトルがスッと決まる時があるんです。迷いがゼロになるわけじゃなくて、迷っても進められるようになる感覚に近いです」と話し、少し間を置いて岡田さんは「つまずいた日のメモって、後から効きますよね。見返すと、次にやるべきことが見えてきます」と振り返るように続けてくれた。
3カ月、6カ月という区切りで見ると、できることは確実に広がるが、もっと大きいのは“景色の解像度”が上がること。通りへ視線を向けると、同じ商店街であっても、そこに漂う匂いや響く音、さらには人の歩幅といった細部までが文章になる。
積み重ねた経験が、文章の手ざわりを変えていく。
メモが増えるほど、
世界が細やかに見える人へ

大牟田市ともだちや絵本美術館
この仕事にはどんな方が合いそうか松尾さんに尋ねた。
「人が好き、人と関わるのが好きな人だととても良いですね。色々なことに興味があって、気になるという方。その上で、思ったことを率直に口に出せるような方が理想です。そして、何より、人の話をちゃんと聞いて、その内容をきちんと文章にできる、整理できる能力。極端な話、そういった方であれば、書いた経験がなくてもできると思っています」
仕事で大切にしていることも尋ねてみた。
松尾さんは「段取りは大事にしてます。自分自身、どちらかというとせっかちなので、こういうところに表れていると思います」と話すと岡田さんは「締切を守ることです。締切をちゃんと守るのって信頼につながると思います」と、答えの中にそれぞれの性格が感じられる。
あなたの言葉で、誰かの一日が少し変わる

まちの小さな変化の積み重ねが、まちの明日の景色をつくる。
「この経験はどんな仕事でも生きます」と 岡田さん。
「大牟田にはまだまだ取材できるところがありますし、取材してくれるあなたの視点を読者が待っています」と松尾さん。
迷いがあっても大丈夫。最初の一歩は小さくていい。取材して、整えて、届ける——その往復の中で、あなたの感性は確かに育ち、誰かの日々をそっと動かす。
あなたの言葉が、新たな“行ってみたい”を生み出す。