【前編】東京のメーカーから函館の大学へ。准教授2人が考える「先端テック」と「暮らし」が両立するまちの話

北海道函館市にある公立はこだて未来大学。2000年に開学し、システム情報科学部の単科大学です。同大では、情報技術を軸に、デザインやロボットなどを学ぶ学生が育っています。

同大で教える長田純一さん(情報デザインコース准教授)と西沢俊広さん(知能システムコース准教授)は、いずれも東京の電機メーカーで働いていた技術者でした。しかも、約20年前には同じロボットの開発に携わっていたといいます。

2人がなぜ函館へ移り、現在はどのような人材を育てているのか。公立はこだて未来大学での教育と、函館で働く日々について聞きました。

メーカーで培った経験を、函館の教育と研究へ

公立はこだて未来大学 システム情報科学部 情報アーキテクチャ学科 情報デザインコース 長田純一 准教授

 

長田さんの専門は情報デザインです。美術系のデザインを背景に、コミュニケーションロボットや地方都市の将来像を描くビジョンデザインなどを研究しています。

「今は『物』だけでなく、『事』や『体験』が重視されています。この分野では、UIやUX、つまり人が得る体験や価値をどう設計するかが問われます。電機メーカーにいた頃から取り組んできたテーマを、今は学生と一緒に研究しています」(長田さん)

公立はこだて未来大学 長田・西沢研究室 西沢俊広 准教授

西沢さんの専門はロボットとドローンです。ソフトウェアとハードウェアに加え、ドローンの運航管理や、複数のロボットをまとめて管理するシステムまで幅広く扱っています。

「ロボットを実際のサービスでどう活用するかも研究しています。今取り組んでいるのは、農業や災害対応などで使えるロボットやドローンです」(西沢さん)

長田さんと西沢さんが一緒に仕事を始めたのは1997年のこと。当時、2人が勤めていた電機メーカーでパーソナルロボットの研究開発に取り組み、長田さんはデザイナー、西沢さんはハードウェアエンジニアとして携わりました。

2004年から2005年にかけては、開学から間もない公立はこだて未来大学と電機メーカーが産学共同研究を行いました。2人が開発したロボットをベースに、羽や腕を付けた「着せ替えロボット」をつくり、2005年の愛知万博(愛・地球博)でミュージカルを披露しています。2人と公立はこだて未来大学の縁は、このとき始まりました。

「当時は何度も公立はこだて未来大学を訪れました。ちょうど1期生が大学院1年生になった頃で、教員にも学生にも『大学のことを世の中に知ってもらいたい』という熱気がありました。20年ほどたって転機が訪れたとき、まったく知らない場所より、以前から縁のある公立はこだて未来大学で働きたいと思ったんです。着任したときは、当時からいらした先生方が私のことを覚えていてくださって、『おかえりなさい』と迎えてくれました」(長田さん)

長田さんは2022年に公立はこだて未来大学へ着任しました。その後、函館で活動する長田さんたちの姿を見て、西沢さんも2024年に同大へ移ります。

「大学の先輩や同級生、会社の元同僚だった長田さんたちが、函館で楽しそうに活動しているのを見て、うらやましくなったんです。電機メーカーで研究や事業開発に携わる立場から、次の世代を育てる大学教員へ移るのもいいなと考え、決心しました」(西沢さん)

約30年前に同じ職場で出会った2人は、別々の時期に電機メーカーから大学へ移りました。今は、20年前に共同研究で関わった公立はこだて未来大学で、ロボットやデザインの研究に取り組んでいます。

企画と実装をつなぐ人材が、函館で育っている

公立はこだて未来大学では、どのような人材が育っているのでしょうか。長田さんは、情報技術とデザインの両方を学べる点を挙げます。

デザインコースの学生が最初に取り組む演習では、自分の地域に伝わる伝統や言い伝えをもとに「仮想生物」をつくります。これは発想力や想像力を広げるための授業です。

「情報系の大学なので、学生にはプログラミングやエンジニアリングの力があります。そこにデザインの想像力が加わると、キャラクターをつくって終わりにはなりません。実際にその生物とやりとりできるプロトタイプまで、自分たちで形にできるんです」(長田さん)

演習で学生が制作した「仮想生物」、地域の伝統や言い伝えがモチーフになっている

見た目や設定を考えるだけでなく、実際に触れたり動かしたりできる形にして、使う人の反応を確かめる。そこまでを素早く進められるのが、学生の特長だといいます。

「今は、物そのものだけでなく、使ったときの体験が大切です。頭の中で想像するよりも、動くものに触れたほうが良し悪しを判断しやすい。学生は、それを確かめるためのものをすぐに形にできます」(長田さん)

西沢さんが注目しているのは、好きなことを起点に伸びていく学生の姿です。

「コンピューターやゲーム、ロボットが大好きな学生がたくさん入ってきます。大学に入ると、自分に必要な勉強には真剣に取り組み、ぐっと伸びていくんです。卒業する頃には、現場で力を発揮できる人材になっています」(西沢さん)

地域に残って学び、働きたいと考える学生が集まることも、地方の公立大学ならではの特長だと話します。

「ハッカソンやプロジェクト学習では、チームで夜中まで議論したり、プログラムを組んだりする学生もいます。その熱量はすごいなと思いながら見ています」(西沢さん)

長田さんも、学生の持つ力が表に出る瞬間に、教える面白さを感じています。

「力や可能性はあるのに、まだ自分でうまく扱えていない学生もいます。その力を引き出せたら、驚くほど伸びるかもしれない。そんな学生と一緒に何かをつくるのは楽しいですね」(長田さん)

東京との行き来を続けながら、函館で働く

函館で仕事をするうえで、2人がそろって挙げたのが空港への近さです。

「ITの仕事はテレワークで進められることも多いですよね。普段は景色や食べ物を楽しめる函館で働き、東京で対面の打ち合わせが必要になったら空港へ向かう。日帰りもできるので、この距離感は大きな利点だと思います」(長田さん)

西沢さんも、顧客の近くにオフィスを置く意味が以前とは変わってきたと感じています。

「もちろん、お客さまの近くにオフィスを構える良さはあります。ただ、テレワークが定着し、対面で会う機会は以前より減りました。函館でワークライフバランスやQOLを高めながら、東京の仕事にも関わる。そんな働き方もできるのではないでしょうか」(西沢さん)

日々の通勤にも、大きな変化がありました。西沢さんは以前、川崎から東京都心まで1時間半ほどかけて通っていたそうです。

「バスを乗り継ぎ、混雑した電車に立っていると、会社に着く頃には一仕事終えたような感覚でした。今は自宅から大学まで15キロほどありますが、函館周辺の無料区間の高速道路を使えば10分少々です。通勤に使っていた時間を自分のために使えるようになったのは、大きなメリットですね」(西沢さん)

東京との接点を保ちながら、日々の移動にかかる時間を短くできる。2人の話からは、函館と東京を行き来する働き方が具体的に見えてきます。

仕事を離れれば、街も海も山も近い

函館での暮らしについて尋ねると、仕事を終えたあとの過ごし方が次々と挙がりました。

「ITの仕事は、どうしてもPCに向かう時間が長くなります。仕事が終わったら、少し体を動かすために金森赤レンガ倉庫の辺りを走る。仕事とその後の時間に変化が生まれ、生活にメリハリがつきます」(長田さん)

函館駅の近くに住んでいた頃は、金森赤レンガ倉庫まで走るのが日課でした。

「観光で来た人が『わあっ』と眺める場所へ、毎晩少し走れば行けるんです。とても贅沢ですよね」(長田さん)

西沢さんは、春から夏にかけては釣り、冬はスキーを楽しんでいます。

「神奈川で海釣りをしていた頃はなかなか釣れませんでしたが、函館や渡島半島の漁港では面白いように釣れるんです。冬は大学から40分ほどの場所にスキー場があります。海の遊びも冬のスポーツも楽しめるのは、函館のいいところですね」(西沢さん)

食も、2人の暮らしに欠かせません。西沢さんは着任後の3年間で体重が10キロほど増えたと笑い、長田さんは大学近くの農家で買う朝採れのトウモロコシを、夏の楽しみに挙げました。

長田さんが「とても好きな時間」と話す帰り道の景色。毎日の帰り道に、この空と、正面の函館山、その手前に広がる市街地が見渡せる(撮影:長田さん)

 

長田さんが特に気に入っているのは、大学から市街地へ下る帰り道です。

「春から秋の夕方は、函館山と反対側から市街地を見渡せます。裏夜景のような景色に夕焼けが重なり、風も気持ちいい。とても好きな時間です」(長田さん)

観光地として知られる風景や、海と山の近さが、特別な予定を立てなくても日常の中にある。2人の話は、函館で働き、暮らす姿を具体的に伝えてくれます。

函館拠点を支える人材と働き方

公立はこだて未来大学には、どのような志向を持つ学生が集まっているのでしょうか。長田さんは、エンジニアリングとデザインの間で進路を決め切れない学生も受け入れられる環境だと話します。

「新しいことをやりたいけれど、自分がエンジニアなのかデザイナーなのか、まだよく分からない。そんな人には『両方やってみよう』と言える大学です。いろいろなことに興味があって迷っている人に、ぜひ来てほしいですね」(長田さん)

地方拠点の開設を検討する企業にとって、人材を確保できるかは大きな論点です。

函館には、情報技術とデザインの両方を学び、アイデアを動く形にできる学生がいる。東京との仕事を続けながら、函館で暮らす教員がいる。公立はこだて未来大学と2人の働き方から、函館に拠点を持つ一つの姿が見えてきました。

後編では、西沢さんと長田さんが経営に携わる公立はこだて未来大学発スタートアップ・FUN ROBO STUDIO 株式会社を取り上げます。大学の研究を函館のまちへ届け、観光や防災に生かす取り組みについて聞きました。

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