大牟田駅から徒歩3分。
街並みに溶け込みながらも、目を引く淡いブルーグレーの建物がある。
「taramu(タラム)books&cafe」

扉の横に置かれた立て看板には「本と雑貨とおいしいもののお店」と書かれている。
一歩足を踏み入れると、そこは店主・村田 幸(むらた みゆき)さんのこれまでの人生とキャリアが結晶化した空間が広がっていた。
「全部突っ込んだ」
店主の歩みそのものがお店になる
taramuは、訪れる人によって、本屋にも、雑貨屋にも、カフェにも映る。
ちりばめられた様々なものの背景には、店主・幸さんが重ねてきた経験がある。

(店主の幸さん)
壁一面の巨大な本棚の前に立ち「普段本を読まない人でも、気軽に読める本を取り揃えています」と語る幸さん。

ぎっしりと並ぶのは、図書館司書の資格を持ち、地元大牟田の図書館での勤務経験もある彼女が選び抜いた本たち。
また、幼少期からの雑貨好きが高じて文具メーカーで働いていた経験も活かし、選りすぐりの文房具や雑貨も販売。

さらに、名古屋から大牟田を訪れた友人から「モーニングができる店がない」と言われたことをヒントに、カフェスペースも併設している。


(カフェメニューのサンドイッチ)
「これまでやってきたこと全部突っ込んだ感じかなぁ」
幸さんの言葉通り、この場所は彼女の歩みそのもの。
そして、この多面的な空間は、外部のクリエイターや地域の人々と交差することで、毎日形を変えていく。ある日は取り寄せたお菓子やパンが並び、またある日はカレーやマフィン、洋服のポップアップショップが出現する。
取材時には、山下陽光さんのリメイクブランド「途中でやめる」とコラボしたtaramuオリジナルTシャツ『〇T(まるてぃー)』が並び、お店の一角を彩っていた。


(裏面には「たらむぶっくす」の刺繍があしらわれている)
訪れるたびに表情が変わる、まさに「毎日飽きないお店」だ。
元倉庫をリノベーション
心地よい「引っかかり」がある空間
taramuには、思わず長居してしまう理由がもうひとつある。
元倉庫をリノベーションした空間自体にも、店主の遊び心が散りばめられている。

店内を注意深く見渡すと、1階にあるカウンターは、かつて目録カード入れとして図書館で使われていたもの。

大牟田のガイドブックや、ショップカードが陳列されている棚はタンスの引き出しが再利用されている。

(タンスの引き出しをそのまま活かした棚)
他にも、本棚の支柱はガス管だったり、雑貨を並べる台はレトロなちゃぶ台だったり…
「どこを見ても “引っかかる”部分があって、いいのかなって。“引っかかり”が多いと、『これなんだったんだろう』とか考えて、いつの間にか長居しちゃったりして」
店内にたくさん仕掛けた“引っかかり”を見ながら、楽しそうに話す幸さん。
完璧に作り込まれすぎていない、どこか余白のある空間。初めて訪れる人でも立ち寄りやすく、毎回、自分が気になる“引っかかり”を見つけていく楽しさがある。
「ひとりで来て、誰かと再会できる」
大牟田のサードプレイス
2026年で、オープンから10年を迎えるtaramu。
幸さんがお店づくりの中で一貫して大切にしてきた隠れたコンセプトがある。それは「ひとりで来れること」、そして「再会の場所になること」だ。

(取材の日にも、モーニングを食べる常連さんと居合わせた)
「常連さんも含め、お一人でいらっしゃる方が多いんですよ。そこに居合わせたお客さん同士で話すと、知りすぎてないから、軽いお悩み相談なんかができて。その場では、関係性も深くなりすぎず解散して。次に来た時に『あ、この間会いましたね』みたいな会話になる。そういう感じが、いいかなぁって」
taramuのカウンター前で、居合わせた人たちが楽しそうに集まって立ち話をしている風景は日常茶飯事だ。

(カウンター越しにお話をする、常連さんと幸さん)
しかもその多くは、グループで来店しているわけではなく、それぞれが「ひとり」でやってきた人々だ。
取材したその日だけでも、taramuには多様な人生が交錯していた。
「久しぶりに来れました!」とモーニングのトーストセットを頬張る常連さん。熊本でカフェを営みながら将来の本屋開業を夢見る男性。新婚旅行でヨーロッパから訪れた初来日の夫婦。なんとなく思い立って北海道から弾丸旅行で九州へやってきた女性―

(ヨーロッパから旅行にきていたご夫婦。モーニングを探していてtaramuを見つけたという)
本、カフェ、雑貨、あるいはこの空間そのもの。
人によって、またその日の気分によって、お店を訪れる目的が違うからこそ、本来出会うはずのなかった人々が自然と引き寄せられているのかもしれない。
何の店かは、来た人によって変わっていい
これまでは色々なことをやっていても「本屋です」と言い切ってきたという幸さん。
しかしある時を境に、「その人が思う店でいいや」と考えるようになったという。

「定期的にカレー屋さんとコラボする日があって、その日に必ず来てくださるお客さんがいて。その方にとっては、taramuはカレー屋も同然なんですよ(笑)本屋と思って来た人は本屋でいいし、カフェと思って来た人にはカフェでいいやって思って」
人によって、あるいは訪れる日によって、本屋にも、カフェにも、カレー屋にも、パン屋にもなる。
例えば、毎朝ここでモーニングを食べながら本を開くことを自分の新しい習慣にしてみる。
あるいは、「家族や職場の同僚ではない、“近すぎない関係性の誰か”と話したいな」と思った時にふらっと立ち寄ってみる。
なんとなく時間が空いた日に、新しい人やモノとの出会いを求めてドアを叩いてみる。
自分の気分に合わせて、楽しみ方を変えられる場所がすぐ近くにあることは、大牟田の暮らしにおける「隠れた贅沢」だと思う。
もし、いつもの日常に少しだけ退屈さを感じたり、新しい風を吹き込みたくなったりしたら、まずは気軽にtaramuの扉を開けてみてはどうだろう。新しい過ごし方の選択肢が、きっとここから見つかるはずだ。

取材後記
本文にも書いたように、今回の取材でたくさんの出会いがありました。
なかでも、ヨーロッパから新婚旅行で来られていたご夫婦との時間は、特に印象に残るものでした。
日本語が話せないご夫婦だったのですが、店主の幸さんやその場に居合わせた人たちで、英単語を紡ぎながら一生懸命に言葉を交わし、会話をしていました。言葉の壁を超えて、その温かさが伝わったのか、ご夫婦もこの旅で一番の思い出だと、一度お店を出た後、わざわざお土産を届けに戻ってきてくださったんです。

(取材動画の撮影も快くOKしてくださいました)
偶然の出会いから、互いの記憶に残る瞬間がつくられていく光景に、涙が出そうになるくらい、心が温かくなりました。こういう瞬間をつくれるのが、taramuという場所が持つ最大の魅力なんだと思います。
少し話は変わりますが、taramuではお客さん主体の部活動がなされていて、手芸部や読書部、登山部などが存在します。
ひとつのお店から、リアルな活動やコミュニティが生まれているわけです。
taramuでは毎月、手書きのスケジュール表が発行されています。部活動の開催日程なども記載があるので、このスケジュール表を見れば、新しい趣味の扉を開く機会になるかもしれません!

(クラフト紙に手書きの絵がなんとも可愛い…コレクションしている人もいるんだとか)
taramuでも配布されているので、お店が気になった方はぜひ訪れてみてください。
店内の温かい雰囲気や、幸さんがこだわり抜いた空間の様子は、動画でご紹介しています。気になった方は、ぜひ。