かつて炭鉱の街として栄え、今でも、繁華街での飲み文化、独特の食文化、最近では空き家を活用したDIYが進むなど、独自のカルチャーがある大牟田市。
「何もない」なんて言われることもあるけれど、噛めば噛むほど面白い魅力が見つかる、クセになる街でもある。
そんな地元・大牟田のポテンシャルを信じ、それぞれ異業種で開業をした2人の女性がいる。そんな2人の拠点は、国道208号に面したビルの2階にある。

ひとつの場所に、ふたつの事業。
異業種で挑む同時開業
この場所には、元ハローワーク職員の原田 侑子(はらだ ゆうこ)さんと、福祉業界で働いていた塩塚 彩香(しおつか あやか)さんが共同で店舗を構える。

(左:原田 侑子さん 右:塩塚 彩香さん)
原田さんは前職の経験を活かし、カード占いを組み合わせたお仕事カウンセリングを提供する「話咲屋(はなさきや)」を、塩塚さんは「オーダーハンドメイド作家」として、思い入れのある着物や洋服を小物などにリメイクする「彩縫屋(さいほうや)」をそれぞれ営む。

(左:彩縫屋 右:話咲屋)
もともとハローワークの職員として、数多くの働く人の悩みと向き合ってきた原田さん。自身を追い詰めてしまっている方に多く出会い「もう少し早く話を聞けていたら…」と、思ってしまう場面がよくあったんだとか。

「心が病んでしまう一歩手前の段階で、ふらっと遊びに来て、気持ちを吐き出して身軽になってもらえるような場所を作りたかったんです。占いは、気持ちを吐き出すきっかけになればいいなって」

彩縫屋は話咲屋と区切られたスペースにある。塩塚さんが思い出の衣類をリメイクして、新たな命を吹き込んだ作品がずらり。

大牟田の夏祭り・大蛇山(だいじゃやま)のTシャツをリメイクした子ども服は、特にお気に入りだと見せてくださった。

全く違う業種だからこそ、店舗に来たお互いのお客さんを紹介し合える良い循環も生まれているんだとか。
「大牟田以外、選択肢になかった」気づいた地元のポテンシャル
取材中にもテンポよく会話が弾む、息ぴったりな2人。実は、高校の同級生。
原田さんは転勤をきっかけに大牟田を離れていたが、塩塚さんとはたまに連絡を取り合う仲だったそう。
「自分が納得できる仕事をしたいと思うと、独立しかないんじゃないかなって考えていた時期に大牟田に戻ってきて、彼女に話して」当時を思い返しながら、そう言葉にする原田さん。
「私も環境を変えたいと思っていた時期だったんです。人生で1回くらい自分のお店を持ったってバチは当たらんやろ、と思って(笑)」

キャリアの選択が、重なった2人。
開業する場所として、大牟田以外の選択肢はなかったのか?
石炭産業の衰退によって、クラスメイトや、映画館、デパートなど、多くのものが大牟田から離れていく寂しい景色を経験してきた。学生時代には、大牟田に対して「何もない」と感じ、これといった印象をもっていなかったそう。
ところが、大牟田を離れている時期に、その印象は変わっていったと原田さんは話す。
「仕事で天神にいたんですけど、シャッター商店街の再生・空き家のDIYリノベーションなど、古くを新しく生かす大牟田のまちづくりの取り組みを耳にすることが増えて。地元が頑張っている、嬉しい!みたいな(笑)」

「炭鉱で栄えていたこともあって、丈夫な建物や昔ながらのお店がそのまま残っているわけです。大牟田のまちづくりの取り組みのように、古くても使えるものが残っているまちって、価値があるんだなぁって、今になって気づいて」
原田さんが感じた大牟田の新しい風は、空き家をリノベーションしてできた飲食店や本屋さん、定期的に展示会やワークショップを開くスタジオなど、実に多様な動きから生まれていた。
塩塚さんもまた、子どもが生まれたことで、心情の変化があったそう 。
「親戚のおじさんが、大牟田に来たことがない子どもたちに延々と大牟田の魅力を力説しているのを見て、ハッとして。おじさんが語り尽くせないほど魅力があるのに、『大牟田はなんもないけん…』なんて、子どもに言いたくないなって思ったんです」
それぞれ違う視点から、大牟田のポテンシャルに気づいた2人。
何もないと思っていた地元は、実は多様な魅力とエネルギーに満ちている。
だからこそ、大牟田以外の選択肢はなかったといいます。
そこから、一緒に店舗をもたないか、と誘ったのは原田さん。
「軽く『じゃあ、2人でせんー??』って聞いて。そしたら、『するー!』って(笑)」そんな息がそろった会話が、今の拠点の始まりだった。
前例なし。地域の人の力を借りて実現したシェア事業所
いざ「2人で一つの場所を借りて、それぞれ開業しよう」と動き出すと、待っていたのは「前例がない」という壁だった。
特に苦労したのが、賃貸契約。
一つの物件に、全く異なる個人事業主が2人で入るという特殊な形態は、不動産屋を大いに悩ませたそう。
「シェアハウスの号室みたいに分かれていないことや、賃貸であることが、難しさの原因になっちゃって。不動産屋さんにも『ちょっと勉強させてください』って言われて。契約書を作るのにも時間がかかりましたし、大家さんにも、これがどういうシェア事業所なのかを噛み砕いて理解してもらうまで、本当にドキドキでしたね」 と、原田さん。

公的支援の申請、税務署からの指摘を想定した対応など、手探りの連続。
「しっかり伝えると理解していただける、地元の不動産屋さんや大家さんに出会えたことは大きかったですね。あとは、スペースを区切るために内装屋さんにも入ってもらったんですけど、面積の区分けや壁の設置などにも柔軟に対応してくださって…」

走り出したからには、やるしかないという気持ちで走り続け、どうにか実現したのが今の拠点。
「公的支援などは断念せざるを得ませんでしたが、大牟田を元気にしたい想いに共感して力を貸してくださる方が多くて、本当にありがたかったです」と話す2人からは、これまで関わった地域の方々の名前がたくさん出てきていた。
チャレンジャーが、次のチャレンジャーを応援する場所へ
地域の方の協力を得たオープンから早1年。
仕切りを設けず広く使えるフリースペースでは、開業当初から読書会やマルシェも定期開催している。
彩縫屋の活動を知って、育休中のお母さんがミシンを習いたいと依頼があったり、誰かがワークショップを開いたり、事業や場所が派生していく面白さを感じているという。
また、事務所の一角には、大牟田近隣で個人のハンドメイドをやっている方などが作品を展示・販売できる「貸棚」が設けられている。

「自分たちが開業するとき、いきなりドーンとお店を構えるしかなくて、一歩を踏み出すハードルがすごく高かったんです。だから、これから創業したい人や、趣味を突き詰めたい人たちが、少しずつ試せる『開業の足がかり』になりたくて」マルシェ開催や貸棚に込められた想いを、塩塚さんが丁寧に語ってくださった。
チャレンジ中の2人だからこそ、次に続くチャレンジャーに寄り添うアイデアが浮かぶのかもしれない。

(マルシェのときに作成する出店者のプロフィールカードは、誰でも見れるように壁に貼っている)
2人が見据える理想の未来は、この場所が「大牟田といえばここだよね」「ここに来れば大牟田のことがわかる」と言ってもらえるような拠点へ進化していること。
創業に当たって苦労した経験も、次にチャレンジしたい人への知見として役立つときがきっとくるはず。
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