前編では、公立はこだて未来大学の長田純一さんと西沢俊広さんに、同大で育つ人材や函館での働き方について聞きました。
後編でうかがったのは、2人が経営に携わるFUN ROBO STUDIO 株式会社です。2026年3月に設立された大学発スタートアップで、公立はこだて未来大学で生まれた研究成果や技術をもとに、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のスタートアップ支援を受けて事業化を進めています。西沢さんが代表取締役CEO、長田さんがCDOを務めています。
大学で生まれた研究を、どのように事業へつなげているのか。ドローンを観光と防災のサービスとして形にする取り組みについて聞きました。
研究を使われるところまで届けたい

会社を立ち上げた理由について、西沢さんは、研究成果を早く社会へ届けたかったと話します。
「私たちは以前、日本の電機メーカーに勤めていました。大企業で新しい事業を始めようとすると、年間100億円規模を目指すことや、既存事業の延長線上で考えることを求められます。そうではなく、私が専門とするロボットやドローンを使い、地域の課題を解決する研究を形にしたいと考えました」(西沢さん)
デザインを担う長田さんも、研究室の中だけでは見つけられないものがあると感じていました。
「デザインで最も大切なのは、使う人がいる社会の中で、誰かの役に立つことです。大学で研究を突き詰めることは大切ですが、その先にある使い方は、社会を見なければ見つかりません」(長田さん)
「大学の中でできることには限界もあります。会社をつくり、研究の段階と社会で使われる段階をうまくつなげたいと考えました」(長田さん)
研究を深めるだけで終わらせず、実際に使う人の反応を受けながら製品にしていく。そのための器として、FUN ROBO STUDIOは生まれました。
函館で見つけた観光と防災の接点

(右)FUN ROBO STUDIO 株式会社 代表取締役兼CEO 西沢俊広氏、
(左)FUN ROBO STUDIO 株式会社 取締役兼CDO 長田純一氏
FUN ROBO STUDIOが取り組んでいるのは、民生用ドローンを活用したサービスです。出発点には、ドローンの普及を阻む価格の問題がありました。
「産業用ドローンは100万円を超え、もちろん300万円や400万円するものもあります。一方、民生用なら10万円ほどで買えます。比較的手に取りやすいドローンを、社会の役に立てられないか。それが発想の原点です」(西沢さん)
公立はこだて未来大学に着任後、西沢さんは函館や道南の各地でドローンを飛ばし、風景を撮影していました。その中で経験した2つの出来事が、事業の方向を決めました。
1つは、函館市東部にある火山・恵山での撮影です。
「白い噴煙がもくもくと上がる様子を見て、函館は火山災害が起こり得る都市なのだと、あらためて気づきました」(西沢さん)
もう1つは、きじひき高原で風景を撮影していたときのことです。ドローンに興味を持った子どもと家族を空から撮影すると、とても喜んでもらえたといいます。
「その場で『この映像をどう渡そうか』と考えました。そこで、撮影からデータの受け渡しまでを一つのサービスにできるのではないかと思ったんです」(西沢さん)
火山災害への備えと、観光地での記念撮影。異なる2つの用途を、同じドローンで実現する発想がここから生まれました。
平時は観光、有事は防災

災害時にしか使わない高額な機材は、導入のハードルが上がります。そこで考えたのが、平時は観光サービスに使い、災害が起きたときには状況把握に活用する仕組みです。
「防災のためだけに何百万円も払って導入するのは簡単ではありません。普及のためには、普段から使えて、いざというときにも役立つものでなければならないと考えました」(西沢さん)
「記念撮影は有料のサービスにし、平時の収益につなげる。災害が起きたときには、そのドローンを状況把握に使う。観光と防災を同じ機体で担う仕組みなら、事業として成り立つ可能性があると思ったんです」(西沢さん)
機体とコントローラーには、10万円ほどで購入できる一般向けの製品を採用しています。タブレットや周辺機器を含めても、一式30万円ほどです。
「民生用の機材を使って費用を抑え、私たちはその上で動くソフトウェアを開発しています。導入しやすい価格にできることも、この仕組みの強みです」(西沢さん)
実証の場と使い手の声が函館にはある
観光向けの記念撮影サービスは、函館山の麓にある元町配水場で実証実験を行いました。
「アンケートでは、回答者の8割が『ドローンで撮影してもらったのは初めて』、9割ほどが『旅行の思い出になる映像が撮れた』と答えてくださいました。事業としての手応えを感じ、今は函館以外の観光地域にも提案しています」(西沢さん)
防災向けには、撮影した画像をすぐに3次元化し、被害の状況を把握できるシステムを開発しています。函館市の防災担当者や木古内町の消防から意見をもらい、操作画面や機能の改善を続けています。
「災害現場へドローンを持っていき、撮影したデータをすぐに3次元化できれば、状況を早く把握できます。現場の方の意見と、操作画面や使い勝手を設計する長田さんのUI・UXの知見を取り入れながら、製品化を進めているところです」(西沢さん)
熊本での地震対応支援では、土砂崩れの現場をドローンで撮影しました。取得したデータから3次元モデルを作ると、崩れた土砂のおおよその量も確認できます。
「搬出や搬入にダンプカーが何台必要かを見積もるだけでも、初期対応には役立ちます。緯度、経度、高度をもとに飛行を指示する仕組みなので、さまざまな地域で使えるように設計しています」(西沢さん)
行政や消防の担当者から、製品化の途中で具体的な意見をもらえる。函館と周辺地域の現場が、開発を進めるうえで大切な場所になっています。
学生が担ったのは、試作ではなく製品・サービス開発

ドローンによる空撮では、操縦者として機体を見ながら、撮影者として映像も確認しなければなりません。機体とカメラの操作が重なるため、初めて使う人には複雑です。
「飛ばすときの操作は『スタート』を押すだけにしています。その分、事前に飛行ルートを設計する画面が重要になります」(長田さん)
たとえば建物の被害を調べる場合、画面上で撮影する範囲と目的を選ぶと、建物の正面や窓を確認するための経路が自動で作られます。データを機体へ送り、「飛行開始」を押せば、離陸から撮影、着陸まで自動で進みます。
「操作画面は、長田さんや学生たちと話し合いながら改善してきました」(西沢さん)
観光向けのサービスでは、撮影後にタブレット上でオープニングとエンディングを加え、1本の動画を自動で作成します。その場でメール送信できるため、旅行者は自分のスマートフォンですぐに受け取れます。
「課金の仕組みを含め、サーバー側は学生が構築しました」(西沢さん)
前編で語られた、アイデアを動く形にできる学生の力が、実際のサービスづくりにも生かされています。目指しているのは、道の駅などで特産品を販売するスタッフでも、利用者の希望に応じて撮影できる仕組みです。
使いやすさを突き詰めると、デザインは見えなくなる

長田さんの考えるデザインは、目を引く見た目をつくることだけではありません。
「デザインという言葉は、ライフデザインなど、さまざまな場面で使われます。簡単に言えば『設計』です。目立つ車や服のデザインもありますが、使いやすさを突き詰めると、意識されないものになっていきます」(長田さん)
たとえば、押して開けるドアを間違えて引いてしまったとき、人は取っ手の分かりにくさに気づきます。一方、迷わず開けられれば、そこにある設計を意識することはほとんどありません。
「ドローンの飛行経路も、うまく動いているときは誰にも気づかれません。少し不自然な動きをした瞬間に、見る人へ違和感を与えてしまう。適切に設計した結果が、無色透明な水のように意識されなくなる。それが、私の考えるデザインです」(長田さん)
エンジニアリングとデザインを同じ大学で学び、研究し、事業づくりにも生かす。FUN ROBO STUDIOの製品は、その組み合わせから生まれています。
2030年、観光地1,000カ所への導入を目指す

FUN ROBO STUDIOは、2030年までに観光向けの撮影システムを全国1,000カ所へ導入することを目標に掲げています。
「日本各地の観光地で、誰でも手軽にドローン空撮を体験できるようにしたいです。同時に、自治体や消防への導入も進めたい。災害が起きたとき、現場へすぐに持ち出して状況を把握できるようになれば、安心・安全にもつながります」(西沢さん)
長田さんは、20年前にコミュニケーションロボットを開発した経験から、普及の初期にどのような使い方を示すかが、その後の標準を左右すると考えています。
「ドローンはこれからさらに普及していくと思います。技術の特徴を生かした、使いやすいものを早い段階で社会に出すことが、私たちの役割です。2030年には、それが当たり前の使い方になっていてほしいですね」(長田さん)
一方、防災で本当に必要なのは、ドローンを飛ばすこと自体ではないと西沢さんは話します。
「ドローンはあくまで道具です。重要なのは、災害時の判断に必要な情報を届けること。AIによる分析や、状況を把握しやすい見せ方まで、一貫して考える必要があります」(西沢さん)
もう一つの課題が、災害時の運用です。誰が飛ばし、誰が依頼し、集めたデータをどのように共有するのか。機材やシステムだけでなく、あらかじめ役割や手順を決めておく必要があります。
「平時は防災へのデジタル投資が後回しになりがちです。ただ、事前に準備しておけば、救援物資の輸送やヘリコプターの手配も早められます。普段から準備とデータ活用を進めることの大切さを伝えていきたいです」(西沢さん)
函館から、次の連携を考える

FUN ROBO STUDIOが取り組んでいるのは、ドローンの技術開発だけではありません。民生用の機体で導入コストを抑え、観光と防災の両方に使える仕組みをつくり、現場の声をもとに改良を重ねています。
観光向けサービスは元町配水場で実証し、防災向けシステムは函館市の防災担当者や木古内町の消防から意見を得ながら開発してきました。サーバーや課金の仕組みには、未来大学の学生も関わっています。大学、行政、現場がそれぞれの立場から事業づくりに加わっていることが、この取り組みの特徴です。
大学の研究を事業に変えるには、技術だけでなく、試す場所と、使う人の声を聞ける関係が欠かせません。函館での事業の始め方は、完成したものを持ち込むだけではありません。大学や行政、地域の現場と一緒に、まだ形になっていないものを試し、育てていく。
FUN ROBO STUDIOは、函館の研究と人材が、新しい仕事や産業につながっていく未来を、形にし始めています。