足を運ぶきっかけがたくさんある。人と音が響き合う明行寺と、ふたりの僧侶

「普段、よく行くお寺はどこですか?」という質問に、答えられる人はどれだけいるだろう。

もちろん地域や家庭によるが、初詣などで参拝に行く人が多い神社に比べ、お寺は法事などの理由がない限り行く機会がなかなか無いように思う。

そんななか、地域の人が訪れる理由を、さまざまな形でつくっているお寺が大牟田にある。

大牟田市四ケにある、転法輪山 明行寺(みょうぎょうじ)だ。

お寺に集う多種多様なきっかけ

明行寺の境内では、お寺のイメージを覆すような取り組みが次々と行われている。

例えば、仏教の教えを聞く“法座”と“音楽”を融合させたイベント「なんもない夜座」は、2023年から始まり2026年4月で第10回を迎えた。毎回、音楽家や地域のお店を出店者として招き、開かれる。

(なんもない夜座での音楽ライブの様子)

他にも、お取り寄せスイーツと消しゴムはんこなどのワークショップを楽しめる「喫茶去(きっさこ)明行寺」、地域で音楽活動をする人たちを招く「うたう明行寺 音楽祭」、ゆるっと夜のお寺に集うことを目的とした夜マルシェ「夜聴聞(よじょもん)」などなど…堅苦しさを感じさせないイベントを続けている。

「こう見ると実にいろいろやっている(笑)感慨深いですね」

これまでのチラシをテーブルに広げながらイベントを楽しそうに話すのは、住職の福山 智昭(ちしょう)さんと、副住職の福山 智美(さとみ)さん。

(左:福山 智昭さん 右:福山 智美さん)

これらの明行寺のイベントは、お寺の関係者であるかどうかに関わらず参加でき、お寺に人が集うきっかけになっている。

「お寺に行く理由がない」が活動の原点

「いつ来てもいいと言われても、、、お寺に行く理由がないから、いつ行っていいかわからないんだよねぇ」

昔からお寺を支えてくれている地域の方々から挙がったそんな声が、いまの明行寺の活動につながっている。

(明行寺のパンフレットでは、活動のはじまりをキャッチーな漫画で描いている)

「それなら、お茶飲んでお話しする日をつくりましょう!それだけじゃ手持ち無沙汰だから、スイーツもワークショップもやりましょう!って、始めたのが『喫茶去 明行寺』でしたね」と、当時の様子を語ってくださる智美さん。

「お寺=宗教施設って思うと少しハードルがある。でも、『面白い人くるし!』とか『美味しいものあるし!』みたいに、お寺に足を運ぶ “言い訳”がいろいろあるといいなぁって思ってますね」と、智昭さん。

実際に、出店者や出演者のファンの方が訪れ、他のイベントに参加してくださることも多いそう。

個性あるイベントを生み出す
めおとユニット「遇々」の存在

明行寺のイベントの特徴のひとつに、「なんもない夜座」や「うたう明行寺音楽祭」など、音楽を絡めたものが多いことがある。

実は、このお二人、めおとユニット「遇々(たまたま)」としても活動している。

(「遇々」のアーティスト写真)

めおとユニット結成のきっかけになったのは、アーティスト「codama」としても活動されている副住職の智美さん。

岡山出身で、幼少期から常に音楽に触れ、大阪で過ごした大学時代も、東京に移った社会人時代も、音楽活動を続けていた。

智昭さんとは、民間企業の同期社員として出会った。その後、結婚を機に、智昭さんの実家である大牟田の明行寺へと共にやってきたのが2018年。智美さんがピアノの弾き語りを本格的に始めたのは、九州へ移住してきてからだったという。

「僧侶になったこともあって、仏教の教えを音楽にのせてうたうこともしていたんです。智昭さんが吹く『笙(しょう)』という楽器はすごくいい音がするんです。これを合わせたら、自分のイメージする音楽をつくれそうと思って、『どう?』って誘ったというより、『吹いて』って伝えました(笑)」

(笙(しょう)を吹く智昭さん)

お二人の「遇々」の活動を知って、音楽家を紹介してくれる方がでてきたり、ご縁にもつながっているんだとか。

「お笑いでいうと、ネタを書く方がcodamaで、やる方が僕みたいな(笑)でも、演奏すると、すごくしっくりきて、活動を始めてからもう7年も経ってますね」

ユニットの二人の関係性をお笑いに例えられちゃうような、温かい会話。

音楽活動をしていることが、お寺に音楽家を招くという個性的なイベントにつながっていることは言うまでもない。

こうしたオープンな雰囲気のお二人の存在もまた、明行寺を「誰もが気軽に集える場所」にしている理由であるように感じた。

整っていない庭
「大牟田」だからできること

音楽活動やイベントなど、活動的に新しいことに取り組むお二人。

とはいえ、明行寺は1620年に開かれた歴史あるお寺。斬新な活動に、ネガティブな声はなかったのだろうか。

「ネガティブな声かぁ…そう言われれば、なかったですね。思っている方はいたのかもしれませんが…」と、これまでを振り返る智昭さん。

その後、智美さんが話してくださった「大牟田」というまちの印象から、ネガティブな声が出なかった理由は、地域のカラーも関係するのかもしれないと気づく。

「最近読んだ本に書いてあったんですけど、庭って、整えすぎると生態系の多様さが失われるらしいんです。大牟田は、福岡県という九州では規模の大きい県に属しているけれども、南端で、すごく整備されているとは言えない。文化としても、熊本が入っていたり、いろいろ生き物がいる感じ(笑)こういう整っていない庭のような大牟田だから、規定されないことが多くて、生きやすいのかもしれないなぁって」

(明行寺がある大牟田市四ケ)

今時のオシャレなカフェの近くに昭和の風情が残る商店街、ネオンの看板が光る繁華街や博多弁でも熊本弁でもない言葉で交わされる会話、、、一見ごちゃっとした、整っていない庭だからこそ、いろんな生き物がいて、動きやすい。

めおとユニットとしての活動が7年、音楽イベント「なんもない夜座」が3年も続くのは、それを開く庭が、大牟田だからなのかもしれない。

今ここにいる人たちと「照らし合う」場を

「お寺って、お坊さんが教えを説いて、参加する方は聞く側みたいなイメージが強いと思うんです。そのなかでも、うちのお寺では、そこにいる人たち全員が発するものであり、受けるものであるっていう、『お互いでつくる』ことをすごく大事にしてるんですよね」

集まった人たちが美味しいものを食べて感想を言い合ったり、音楽に体を揺らしたり。

「全員野球…って言って伝わるかな(笑)」

お笑いの例えに続き、伝わるように丁寧に言葉を選んでくださる智昭さん。

「音楽のライブも仏教のお念仏も、そこにいる人たちが、受けたり発したりして、意図せず照らし合うところは似てるというか…」

『照らし合う』という、音楽と仏教の共通点を日々感じているという智美さん。

人だったり、食べ物だったり、何かをきっかけにそこに集った人たちが、その場の空気をつくる。明行寺として大切にしている『お互いでつくる』という在り方が、音楽と親和性が高いからこそ、ライブやイベントというかたちで体現され続けているのかもしれない。

「誰かの一言が、思いがけず誰かの心に届き、その人の言葉がまた別の誰かへと波紋のように伝わっていく。そんなご縁の連なりの中で、予想しなかった景色が生まれていくのだと思います。そうして生まれた景色のその先を、みんなでより合いながら、一緒に面白がっていけたらと思っています。」

今後について伺った際、「これをしたい」というより、「こうあれたらいい」という言葉で結んでくださった智昭さんの言葉が印象的だった。

取材後記

「お寺」という場所に、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。

正座をして、背筋をピンと伸ばさなければいけないような厳かさや、どこか遠い世界のような敷居の高さを感じる人も少なくないのではないかと思います。

私自身も初めてのお寺の取材で、「撮ってはいけない」「足を踏み入れてはいけない」等、“失礼にあたるNG行動”が多いのではないかと、かなり緊張して取材に臨みました。

もちろんお作法はあるものの、智昭さんと智美さんがつくる穏やかな空気、お話をしていると時折こぼれるユーモアが本当に心地よく、その温かさに包まれて緊張が解けていきました。

「なんもない夜座」で耳に届いたのは、会場から起こる笑い声や、参加者同士の会話、参加者と出店者さんの会話。ただそこにいるだけで、心地よさがありました。

そんな場の雰囲気をつくっているのは、間違いなく住職・副住職のお二人。

ここまで読んでくださった方には、ぜひ「なんもない夜座」を取材した動画も視聴して、この明行寺の空気感をよりリアルに感じていただきたいです。

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